Medical

医療へのアクセス向上

医療アクセスの改善に関する表明

世界には、医療環境や医療制度、公衆衛生や教育、所得格差などのさまざまな社会的要因により十分な医療を受けられない国・地域が存在します。特に感染症の蔓延に伴う人的・経済的損失は、深刻な社会課題になっています。多くの開発途上国や新興国では、貧困により感染が蔓延することで労働力や生産性の低下を招いており、感染者の増加によりさらなる貧困に陥るという「負」のスパイラルが生じています。医薬品アクセスを改善し、こうした感染症に対して効果的な対策をとることは、長期的な視点に立てば各国の貧困撲滅や経済成長にもつながります。
栄研グループは、「医療アクセスポリシー」を定め、世界の人々の生命・健康を守るために、医療アクセス向上への取り組みを進めます。
これらの課題解決への取り組みは、国連が定めた SDGs(持続可能な開発目標)の主に目標 3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に貢献します。

栄研グループの医療アクセスポリシー

医療へのアクセスの制限は、健康と医療に関する重要な社会課題です。
栄研グループは、「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」を経営理念とし、EIKEN WAYにおいて「だれでも、どこでも、いつでも安心して検査を受けられる製品・サービスの提供」をステークホルダーへの責務として掲げており、以下の活動を推進することにより、医療アクセスの課題解決に取り組んでいきます。

1研究開発の推進

  • 当社が独自開発した遺伝子増幅技術(LAMP法)を基盤としてオープンイノベーションを実現しグローバルなパートナーシップを活用して、アンメット・メディカル・ニーズ(未充足な医療ニーズ)の解決に取り組みます。
    ・検査薬の種類の拡大(NTDs)
  • ・開発途上国や新興国でも使用可能な検査薬の改良

2医療アクセスの向上

  • 当社の検査薬を必要とする世界の人々に届けるため、各国市場の状況を十分に調査し、医療アクセス向上を目指す様々なパートナーと協力し、取り組みます。
  • ・製品提供国数の拡大(結核、マラリア、NTDs、便潜血検査)
    ・プライマリ・ヘルスケアとユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成

3医療インフラの改善

  • 感染症の発生は場所を選びません。また、迅速な検査が必要です。LAMP法による遺伝子検査は、試薬の冷蔵保存の必要がなく、また、ポータブル・ソーラーパネルやバッテリーで稼働することができ、電力インフラ未整備の開発途上国や医療過疎地での検査も可能としています。感染症が蔓延している現場で迅速な検査ができるよう、様々なパートナーと協力し、取り組みます。

・インフラ未整備環境で稼働可能な検査装置の提供

医療水準の向上支援

遺伝子検査製品を通じた世界的感染症への取り組み~結核・マラリア・NTDs ~/LAMP製品

世界三大感染症である結核とマラリアはいずれも、早期診断によって治癒が見込める疾患です。しかしながら、多くの開発途上国では医療へのアクセスが不十分なため必要な検査が行われておらず、その結果それらの感染症が今でも蔓延し多くの方が命を落としています。また、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases : NTDs)と呼ばれる疾患群においては、その市場性の低さから有効な治療法が確立されておらず、アクセスすべき医療さえ構築されていない場合も多いことが知られています。SDGs(持続可能な開発目標)では、2030年までにこれらの感染症の撲滅に貢献することを目標にしています。そのような課題解決として開発された、当社の独自技術LAMP法を用いた感染症の検査システムは、医療へのアクセスを向上させることでそれら感染症により開発途上国が被っている社会的損失の回避およびそれに続く経済的な発展に貢献しています。
また、各国政府·保健当局、大学、政府機関等とも協力し、検査システムの定着と普及に取り組んでいます。

  2022年度 実績 2024年度 目標 2030年度 目標
開発途上国における製品展開国数 7か国 8か国 15か国

TB-LAMP(結核検査システム)

世界では毎年約1,000万人が結核に罹患し、約150万人が命を落としています。栄研化学は、独自技術LAMP法を用いた結核検査システム(TB-LAMP)を開発し、2016年にWHO(世界保健機構)のガイドラインに収載され、スメア検査(喀痰塗抹検査)に代わり得る検査として推奨されています。TB-LAMPは、結核菌群(MTBC)を検出するための遺伝子検査で、喀痰検体から専用のDNA抽出キット(PURE DNA抽出キット)を用いてDNAを抽出し、最小限の機器を使用し増幅、蛍光目視により、短時間(約1.5時間)で判定ができます。ソーラーパネルやバッテリーを装備することが可能で、電力インフラ未整備の開発途上国や医療過疎地での普及が期待されています。また、各国政府·保健当局等と協力し、本システムの実証試験を経て結核対策ポリシーガイダンスへの収載とスクリーニングプログラムの定着に継続的に取り組んでいます。

TB-LAMP活用の様子(カメルーン)

ザンビア共和国におけるTB-LAMPの取り組み紹介
掲載:国立国際医療センター協力局「TENKAI Project News Vol.2」(P11-13)

Malaria-LAMP(マラリア検査システム)

マラリアは、熱帯地域を中心に多くの人々が脅威にさらされグローバルヘルスの課題となっています。2020年には2億4,100万人が感染し、推計62万7,000人が死亡しています。そのうちの7割が5歳未満の子どもです。更にCOVID-19のパンデミックにより、最悪のシナリオとして、マラリア対策の進展が20年前の状況に後戻りしかねない状況も示唆されています。
栄研化学は、既にLAMP法を用いた3種類のマラリア属原虫検出試薬(マラリア属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫)を世界で供給可能としています。Malaria-LAMPは、マラリア属原虫を、短時間(約1.5時間)で高感度に検出でき、現在汎用されている顕微鏡法やイムノクロマト法では見逃されていたマラリア患者を、本製品の特長である感度の高さを活かすことで精度よく見つけ出すことが可能です。更に、Malaria-LAMPは極めて高感度なため、無症状であるが極少数のマラリア原虫に感染している人を見つけ出すことが可能です。Malaria-LAMPを用いたサーベイランス活動によってそのような感染者を見つけ出すことは、特定の地域からマラリアを排除する上で有効であると考えられています。栄研化学は、これら試薬をより多くのマラリア浸淫国に普及させることで、世界のマラリア対策に貢献していきたいと考えています。

Malaria-LAMPを用いたマラリアサーベイランス研究ビデオ(ハイチ)

顧みられない熱帯病への取り組み(NTDs)

顧みられない熱帯病は、主に熱帯·亜熱帯地域の開発途上国の貧困層を中心にまん延している寄生虫、細菌、ウイルス、真菌等による疾患のことで、その市場性の乏しさより創薬等の研究開発が積極的には行われない疾患群を指します。世界保健機関(WHO)がNTDsと定義する20種類の疾患群だけでも世界で10億人以上が感染していると言われており、深刻な社会問題になっています。
LAMP法はその簡易性や迅速性からNTDs用の病原体検出への応用が期待されており、これまでほとんどのNTDs病原体検出へのLAMP法の応用が学術論文等で報告されています。当社でもTB-LAMPやMalaria-LAMPで培った技術を応用し、幾つかのNTDs検出用LAMP試薬を開発しています。 例えば、国連がSDGs 3 に関連して実施しているアフリカ睡眠病(Human African Trypanosomiasis : HAT)の排除活動において、その病原体であるTrypanosoma brucei 原虫を高感度で検出するLAMP試薬が活用されています。今後はリーシュマニア症やシャーガス病といったHAT以外のNTDsへの応用も進め、NTDsの被害を受けている全ての人々に迅速で正確な診断とそれに基づくより有効な治療へのアクセスを提供していきます。

参考:Driving elimination of human African trypanosomiasis (HAT) in a challenging transboundary region in line with SDG 3 and SDG target 3.3 - United Nations Partnerships for SDGs platform.

HAT対策活動の様子(DRコンゴ)
Origin: Joseph Ndung'u (FIND)

パートナーシップ

キガリ宣言

顧みられない熱帯病(NTDs)制圧に向けた「キガリ宣言」に署名

当社は、2022年6月、顧みられない熱帯病(NTDs)制圧に向けた国際官民パートナーシップ「キガリ宣言」に署名しました。本宣言は、NTDsの制圧に向けてステークホルダーが共闘誓うハイレベル宣言です。本署名により、今後さらにグローバルパートナーとの連携を強化してNTDsの被害を受けている人々に迅速で正確な診断とそれに基づくより有効な治療へのアクセスを提供するべく、世界保健機関(WHO)のNTDs制圧に向けたロードマップ2021-2030の達成に向けて取り組みを推進していきます。

GHIT Fund

感染症の制圧を目指す GHIT Fundに参画

GHIT Fund は、日本政府、民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、英国ウェルカム財団、国連開発計画が参画する日本発の国際的な官民ファンドであり、日本と海外の研究機関の連携を促進し、開発途上国で蔓延する感染症に対する治療薬や診断薬等の開発を推進しています。当社は、日本発のイノベーションを活かして感染症の制圧を目指す GHIT Fund の活動趣旨に賛同し、製品開発への参加に加えスポンサーとしても参画しています。本パートナーシップを通じて、開発途上国での感染症撲滅を目指す取り組みが一層加速することを期待しています。