2016年10月号(第62巻10号)

〇少し高くなった空に幾つもの雲が浮かんでいる。出鱈目な方向に細かな粉を撒き散らしたようなうっすらとした雲は、夕日に染まり燃えるように輝き、どっしりとした厚い雲は、夕日をさえぎり黒い煙の固まりのようになって恐ろしげな風情で浮かんでいる。
夕日に染まる秋空が闇の中にすっかり身をひそめるまでのほんの僅かな時間、空と雲と光は生気が宿っているかのようにとりどりの表情を見せて楽しませてくれる。
今年の秋は、急に冷え込んだり暑くなったりで忙しくしているうちにもう半分くらいが過ぎている。上手に機会をみはからって紅葉や散策を楽しみたいものであるが、タイミングを合わせるのはなかなか難しく、やがて寒さに負けてしまいそうである。
そんなときは誰もがえこひいきなく特等席で鑑賞できる、素敵な秋空への小旅行はいかがであろうか。
〇先日見ていたテレビ番組で「パフィン」という鳥の生態が紹介されていた。北大西洋と北極海に分布し、全長は約30cm。冬と夏では少し違うようだが、夏羽はお腹と顔の左右が白くなり、大きなオレンジ色のくちばし、フードつきの黒いマントを着ているように頭頂や首と背中が黒い。顔も大きく体はコロンとしてペンギンのような容姿だが、ペンギンのようにとまではいかないが水深60メートルまで潜ることもできる上、時速90キロで空を飛ぶこともできる。小さな角(つの)のような形をした模様の真ん中に目があってピエロの化粧を思わせる。英名「AtlanticPuffin」から「パフィン」と呼ばれるが、日本での正式名称はこの目の特徴から「西角目鳥(にしつのめとり)」だそうである。
尾羽が短いせいか、歩く姿は、後ろ手に組んで体を左右にゆすりながら闊歩するおじさんのようでほほえましい。
パフィンの大きな嘴は、イカナゴなどの小魚を多数挟んで運ぶことができる。パフィンのつがいは5月にひとつ卵を儲け、雛が羽化すれば親鳥は海から採ってきた沢山の魚を嘴にくわえて戻り、大きな海鳥にばれないように注意深く巣穴に魚を運び入れる。テレビでは、雛鳥にせっつかれて親鳥が慌てて餌を与える愛情に溢れるシーンが映し出されていた。ナレーションによれば、パフィンは仲間のそばを通り過ぎるときペコリと頭を下げていくそうである。大勢の群れの中で暮らすうちマナーを身につけたのか、たまたまそう見えるのかわからないが、厳しい自然に耐えながらも自然や仲間との調和を保ち、きちんとした暮らしを続けているパフィンに見習うことは多そうである。

(大森圭子)