発行の経緯

 本誌は1955年8月に創刊されました。当時、情報の伝達方法が十分に発達していない中で、当社は培地メーカーとして何かできることはないかと考えたところ、佐々木正五先生(当時慶應義塾大学医学部/初代編集委員)から細菌検査の現場で役立つ情報を収載した冊子を作り、全国に発信する提案をいただきました。こうして医学や医療の発展に寄与することを目的とし、本誌を発刊し、以来毎月発行しています。

 A5判で出発した本誌は、第41巻(1995)から現在のA4版にサイズを変更しました。また、2004年からはWeb版でも基本的に全ての記事を公開しております。 「モダンメディア」という本誌の名前の由来は、「近代的(モダン)」と「情報媒体、培地(メディア)」からなり、「最新の情報」、「最新の培地」という二つの意味をもっています。

発刊の言葉(1955年8月「創刊号」より)

発刊の言葉(1955年8月「創刊号」より)

創刊号 表紙

 現代の微生物學の基礎は、パスツールとコッホによって確立されたと云っても過言でない。今日に於ても尚当時と同樣微生物の多くの発見は、全て生体外に於て培養基を用いると云う方法で行はれている。即ち固形培地の発見によって平板培養法が完成され雑多な菌の分離培養が簡単に行はれる樣になったことは實に偉大な業績と云はねばならない。

 コッホ氏等によって考案されたこの培養の基本原理は現在でも重要な基礎となっている。又ネーゲル氏は1868~1880年に亘り微生物の発育に必要な炭素・水素・酸素及び窒素等が如何なる形態に於て微生体に存在するかと云う研究を発表し、それより更に微生物がその生活に必要な栄養源であるアミノ酸及び含窒素性物質を含有しているペプトンの使用を最初に提言したのであった。然して今日に於てもこのペプトンは培養基組成中の重要な構成物質であって微生物學上重要な発見の一つである。

 かくの如くにして現今に於ては如何なる培地を微生物にマッチさせて行くか、又未だ培養出來ない菌には如何なる榮養源を含んでいる培地が適しているか、又培地を如何にすれば菌の発育を良好にし且促進するか又より長期間培養しても菌に変性を起さない樣にするには如何にするか等、数々の問題が提供されているのである。此等の課題は基礎医學並に臨床医學に重要な関係を持ち之が研究は最も重要となっている。

 然して自然界に微生物が発生するときは必ず含窒素性物質と炭水化物とが存在し此等の物質が微生物成長並に生活作用の維持と運動の促進に役立っているかは明らかなことである。

 然し此の二物質は複雑な構造を持っているので此を微生物が利用するためには構造の簡単な物質に分解されなければならない。此等の分解は加水分解・酸化・還元・脱アミノ等の細菌活動の反應により進行しているのである。此処に於て其の本態たる微生物の菌体並に分解過程に於ける微生物の代謝物質は何物なりやと云う研究が展開されて其の物の化學的分析によって之を追及している。之によって微生物の必要なエンリッチメント並にグロスファクターは何が要求されているかを解決しようと研究が続けられているのである。事實この研究によって培地の進歩に新らしい光明が与えられ日進月歩のあゆみが續けられている。

 今や抗生物質の培養はタンク培養に発展して工業化され吾々の日常生活に密接な関係を持つに至った、眞に培地の進歩発展こそは医學界のみならず吾々日常生活に重大な影響をもたらしている事が知られる。

 吾社が此處にささやかながら培地専門の本誌を発行する微意も茲に存する次第で、いささかなりとも斯界に貢献する所あれば幸である。