2016年10月号(第62巻10号)

遊びをせんとや生れけむ

笛吹中央病院 院長
尾崎 由基男

私は元来遊ぶことが大好きで、多趣味のほうと自認している。囲碁、マージャン、ゴルフは若い頃かなり夢中になり、それなりに上達した。自転車の楽しさに目覚めたのは、50代半ば、減量のためにサイクリングを始めたのがきっかけだったが、自分で風を起こして走る爽快感にはまり、仕事に行く前に毎朝のように走り、また学会の度にマイ自転車を持って行き、名所旧跡を巡ったりした。それ以外にもいろいろな遊びを楽しんできた。考えてみると、私が主として従事した研究も、自己の探究心を満足させる遊びのようなもので、結局私の人生はすべて遊びで満たされてきたということであろう。
数ある遊びの中で、おそらく一番好きなのは釣りである。開高健の随筆にあったが、中国の古典に、数日幸せになりたかったら結婚をしなさい、しかし一生幸せになりたいのなら釣りを覚えなさい、とあるという。確かに5センチしかないような小魚でも、それなりの引きがあり、男の狩猟本能を掻き立て、飽きることがない。魚ごとに釣り方も違い、奥が深い。特に33歳のころ高知で覚えた海釣りは、その豪快さはもとより、釣った魚を肴として、皆で宴会を開くという最高の楽しみが付いてくる。
ところが、35歳の時に先輩に誘われて仕官した山梨県は、なんと海無し県であった。静岡の清水港あたりが最も近い海だが、一般道を行くと2時間はかかるので、海釣りは諦めるしかない。以来、定年を迎えたら、清水港のそばにマンションでも借りて、マリーナに船を置くことをずっと夢見ていた。
ところが61歳の時車の中でラジオ番組を聴いていたら、山梨県民の健康寿命は70歳との事。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されている。日常生活に支障があれば、海釣りどころではない。定年まで待っていたら、5年間しか楽しいことができないではないか。私は速攻で、中古のボートを売っているマリーナを探して、小さなボートのオーナーになり、海釣りを始めることにした。以来、時間があれば(一月に一回も行けないが)清水港、世界遺産にもなった三保の松原沖で、富士山を眺めながら、釣りをしている。この釣りを始めたおかげで、医療関係以外の方とのお近づきになれたことにより、世界が広がったことも、大変ありがたいと思っている。やはり、やりたいことは早くやった方が良い、いつまで健康でいられるか分からないのだから。