2016年4月号(第62巻4号)

〇このたび発生した熊本県熊本地方を震源とする地震により被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、日夜を問わず地元の方々に寄り添い、健康・安全の管理に全力を尽くされている方々に深く敬意と感謝の意を表します。
一日も早くこの地震がおさまり、皆様方の安全が確保されますことをお祈り申し上げます。
モダンメディア編集室

〇幼い頃、縁日の出店で両親が何かひとつ好きな鉢植えを買ってくれるというので、敷地の中をぐるぐると何周も回ってようやく選んだ鉢植えが「ぼけ」であった。笑いをこらえる家族に薄々気づきながらも、こんな愛らしい紅色の花を咲かせた植物に、なぜこんな名前がついているのか、子供心に哀れに思った。
「ぼけ」の語源は、その実が瓜に似ていることから「木瓜」と書いて「もっけ」または「ぼっくわ」と呼んでいたものが、後に転訛して「ぼけ」になったといわれている。当時買った鉢植えはとうに枯らしてしまったが、何代目かのぼけが今年も花を咲かせ、まだ色彩に乏しい早春の日々を彩ってくれた。春の嵐が夜中じゅう吹き荒れた朝、役割を終えたように、ぼけの花は冬のかけらとともにあとかたもなく消えてしまった。先日、このぼけからも新芽が吹き出し、気がつけばあたり一面すっかり春になっていた。
〇春になった喜びや情景を表した歌というと「春が来た」「春の小川」「おぼろ月夜」がまず思い浮かぶ。どれも文部省が編纂した「尋常小学唱歌」(1911~1914)に収録されたものであり、百年を超える歳月いつも我々のそばにあって、愛され歌い継がれていることに驚かされる。
「尋常小学唱歌」は第一~六学年の6 つに分かれ、それぞれ20 曲。「春が来た」は第三学年、「春の小川」は第四学年、「朧月夜」は第六学年の教科書に収められていた。当初「尋常小学唱歌」の作者は伏せられていたこともあってか記録に誤りもあるようだが、これらは全て岡野貞一作曲、高野辰之作詞による作品といわれている。
その後、改定版が出される際に題名や歌詞が改変されるものもあり、例えば「春の小川」では、1942年の改定で文語体であった歌詞は児童の学習段階にあわせて口語体になり、また、次の三番の歌詞が削除されている。

春(はる)の小川(おがわ)は?さらゝ流(なが)る。

歌(うた)の上手(じょうず)よ、いとしき子(こ)ども、

聲(こゐ)をそろへて?小川(おがわ)の歌(うた)を

うたへうたへと?さゝやく如(ごと)く。

軍歌の斉唱が促されていた時代、失われた歌詞もまた戦争の犠牲であったかも知れない。
愛情溢れるこの歌詞を歌うことのできる春を迎えられることを幸せに思っている。

(大森圭子)