2016年3月号(第62巻3号)

〇本号には、東邦大学看護学部感染制御学教授の小林寅喆先生に、昨年8 月に逝去された五島瑳智子先生の追悼文をお書きいただきました。
読者の皆様の中にも、五島先生との様々な思い出を大切にされている方が多くいらっしゃることと思いますが、わたくしにとっては雲の上の方であった五島先生の追悼文を読ませていただき、五島先生が残された大きなご功績とあたたかいお人柄に触れて心を打たれました。
〇五島先生には本誌が発行を始めて早いうちから本誌へのご執筆をたまわっております。ご専門領域の話題に関する記事のご執筆はもとより、「随筆」欄には第8巻(1962年)のご執筆を初めとして度々ご執筆をたまわりました。五島先生のエッセイの素晴らしさはわたくしが編集に係ってすぐにお噂をききました。あるときは古いにしえの建造物や景色に触れて古代に生きた人々に思いを馳せられ、あるときはご深交のあった方との大切な思い出やその方への思いを優しさにあふれる文章でご紹介いただきました。なかでも私が強く印象に残っているのは「P・P & M 再び」(第39巻(1993年))です。当時、クリントン大統領の誕生日を祝うコンサートに出演した60年代のフォーク歌手P・P & M(ピーター・ポール&マリー)のことを話題にされ、最後にベトナム反戦の歌詞を取り上げて、
「(前略)
“多くの生命を無駄にしたとさとるまでにどれほどの死が必要なのだろう”
もう若くない三人が、“風に吹かれて”を歌わなくてもよくなる日が本当にくるだろうか。クリントン氏も60年代、多感な少年期を過ごしている。」

と書いていらっしゃいました。それから20数年が経ち、この日が遠ざかっていくような今の情勢に胸が痛む思いです。

〇今頃になると、天気予報の桜の開花の情報に興味津々になり、暖かくなれば「やれまだ咲いてもらっては困る」、花冷えをしては「まだあまり咲いていない」と、自分の予定次第で勝手なことを言っている。
南北に長い日本列島では、1月末の沖縄での開花を皮切りに、北海道まで桜前線が縦断し、花が終わるまでには約5カ月もかかる。また標高が100メートル高くなると開花が2-3日遅れるそうである。身近なところでは、ぱっと咲いてぱっと散る桜であるが、その気になればまだゆっくり楽しむことができるところもまた桜のよいところである。
唐の詩人劉廷芝は「年々齢々花相似 歳々年々人不同」という一節で、花は年々同じように咲くけれど、人は年々移ろいゆくことを詠っている。老いを止めることはできないが良い歳を重ねることは人の誰にも与えられた能力である。去年の桜から一年が過ぎ、今年の桜を皆様はどこでどのような思いで眺められるのでしょうか。

(大森圭子)