2016年2月号(第62巻2号)

〇節分も終わり、ところどころに見え隠れする春の気配に励まされながら、長い冬の最終章を乗り切る頃になった。梅の花のほどよい華やかさにほっと一息ついて、春の訪れと同じ歩調で心身ともにゆっくりと春に向かう日々である。
〇暖かくなり薄着になって困るのが、冬の間に太めになった体型である。「ベルトの穴がひとつ先にずれると寿命が縮まる」という言葉があり、ひとつで1 年、いや5 年だ、10年縮むのだと様々言われるが、要するに肥満は健康の敵ということである。
いまでは健康のバロメーターにも使われるベルトだが、もともとは人に羞恥心が芽生え腰布を留めるために初めて身に着けた衣服とも捉えられている。「ベルト」の語源は、ラテン語の「バルテウス」だそうで、古代ローマ人が肩から下げていた剣をかける帯の呼び名であり、後に腰に巻きつけても使用される様になった。一方、同じ意味で使われる「バンド」の語源は結ぶ(bind)からきており、細い紐の様なタイプの呼び名であったようだ。私の知人には「ベルト」のことを「バンド」と言って古臭いと笑われる人があるが、わが国では時代とともに「ベルト」と呼ぶ人のほうがたまたま多くなっただけで立派な歴史を持つ言葉なのである。
ベルトは実用かつ装飾を兼ねて古くから用いられ、古代エジプトのツタンカーメンの墳墓から出土された小箱には、ゆったりとした服に幅広の布を巻いたり、ひだのある長いスカートの上にやや幅のある帯を前で結び長くたらした古代エジプト人の姿が描かれている。古代ギリシア人は一枚布を纏い、着付けのために細い紐を腰に巻いた。欧米の婦人は丈夫な素材のベルトを青銅や金のバックルで飾ったものを身につけたが、バックルの中心には鋭い突起があり、これは護身のためであったと推測されている。ちょっとしたヒール(悪役レスラー)みたいである。中世に入ると貴金属や宝石など高価な素材や紋章などをあしらって階級を誇示するものとなり、後に贅沢になり過ぎたことから、ベルトの贅沢を禁止する法令も出されたという。日本では正倉院宝物のなかに円形や四角い銀の飾りや紺玉(ラピスラズリ)で飾られ黒漆で仕上げられた革帯が納められているそうだ。大変贅沢なつくりであるが、身につけて動くには不便で重たそうである。
物を持たせるとどうしても贅沢な要素を加えて人との違いを誇示したくなる、人間の悪い癖である。
〇肥満の話に戻ると、本来、ベルトの穴はサイズの調整に使うものでなく、通常5つ開けられた穴の真ん中だけを使うようにバランスよくデザインされており、他は飾りの穴だそうである。多少太っても、ベルトの穴をずらせばよい・・・ の考えはNG なのである。

(大森圭子)