2016年12月号(第62巻12号)

人工知能と近未来の診断学

柏健診クリニック 主任総合判定医
只野 壽太郎

最近、人工知能(AI)が発達し続けると、人類の知能を超える究極の人工知能が生まれる2045年問題が話題になっている。この時代には仕事の多くはAIに奪われ、残された仕事は1.ロボットを運用及び教育する仕事2.高度な人間関係を必要とする仕事3.芸術、スポーツやショービジネスの仕事4.アイデンティティを追及する仕事の4種類になると予測する学者もいる。
医師は特に患者との人間関係が重要で、この部分はAIに代る事は無いかも知れないが、診断系には大きな変化をもたらすと思われる。
検体検査では東大のIBMWatsonが白血病患者の特殊なタイプの遺伝子を10分で見つけ診断したことが報道された。また、BergPharma社はAIで自閉症を脳回路から見分け、診断に有効なバイオマーカーを発見したと報告した。このように検体検査は近い将来、AIが診断の主役となるであろう。
病理組織検査や放射線検査は画像認識技術が基本で、AIの得意とする部門でもある。SanFranciscoのEnlitic社は病理組織像、X線、超音波、MRI、CTなどの画像から悪性腫瘍をDeepLearning法で高速かつ正確に診断するAI技術を開発し、がん検出率は医師を上回るとした。
もし、AACC(アメリカ臨床化学会)の持つ1577疾患に関連する1985項目の検査データにAFIP(米軍病理学研究所)とWHOが持つ病理組織像を加え、これにCT・MRI導入率が世界一の我が国の画像情報を統合したデータベースを作りAIで解析するシステムを構築すれば、世界最高水準の診断システムになると思うが、夢だろうか。
AIの医療に対する影響について3,701人の医師を対象とした調査では、837人(23%)が10年以内、1,208人(33%)が20年以内にAIが診療に参画する時代が来ると回答している。しかし、AIが誤った診断をした場合の責任の所在、AI診断の法的・倫理的な問題、AI診断を患者が素直に受け入れるか否かなど解決を必要とする部分も多く残されている。
近未来の診断領域へのAI導入は医療に画期的な進歩をもたらすことは間違いないので、今後の進歩を期待したい。