2016年11月号(第62巻11号)

国は違えど世界共通のオヤジ

東海大学医学部 基盤診療学系臨床検査学 教授
宮地 勇人

国際交流が活発となった今日、世界のどこで発生した感染症も飛行機で速やかに持ち込まれる危険がある。2014-2015年、西アフリカでエボラ出血熱の深刻な大流行があった。当病院でも、西アフリカから帰国した日本人が高熱で入院し、エボラ出血熱疑いの緊張感が走った。
その西アフリカは小生の研修医時代、色々な意味で遠い存在であった。同地域の某国の男性大使館職員が結核症の診断で大学病院に入院となり、小生が受持医となった。診療は困難の連続であった。まず、アフリカの多くの国と同様、公用語がフランス語で、英語が使えなかった。高校時代に第二外国語としてフランス語を選択していた小生は、急遽基本的な文法を復習するとともに、専門用語を調べて、診療に必要な簡単な会話を準備した。毎日の回診にて問診、診察、カルテ書きを何とかこなした。採血は褐色の皮膚のため血管の走行が見えない。指先で血管の弾力を何とか確認し採血した。ツベルクリン反応は、皮膚発赤の範囲の判定が出来なかった。最も困ったのは、挨拶習慣である。看護師さんから患者がお尻当たりにタッチすると苦情が寄せられた。国によって、宗教、食物など習慣の違いがある。海外での挨拶は、日本と異なりハグなどスキンシップを大切にする。スキンシップは親愛を示すその国の習慣または礼儀作法の可能性がある。大使館職員に失礼があっては外交問題になりかねない!看護師さん達には、「母国の習慣、作法を尊重し、何よりも円滑な診療にて患者が早く良くなることを優先しよう」と話し、納得して貰った。その後も看護師さんへのタッチと苦情は続いた。作法にしては変である。ソフトに本人に確認してみた。その国の習慣や作法でなく、個人の性癖と判明した。気さくな外交官と思い込んでいたが、実は大使館の警備員のおじさんで、単なるスケベオヤジだったのである。オヤジは国が違っても世界共通であった。看護師の方々には無理を言って大変申し訳なかった。2020年には東京オリンピックが開催され、多くの国から訪問客が訪れる。様々な習慣の違いを正しく認識した上でお迎えし、本当のおもてなしをしたい。