2016年8月号(第62巻8号)

doctorは医者じゃない?

小山田記念温泉病院
登 勉

昨年3月末で大学を辞し、大学在職の頃から非常勤で手伝っていた医療法人に勤務している。自宅から病院までは距離にして30kmであるが、通勤は自家用車で1時間、週5日の往復通勤時間は、単純計算で週10時間、月40時間、年2000時間になる。車内での時間をどのように過ごすか?残り少なくなった人生をどう過ごすかとも共通する命題であるが、思い至ったところは、朝の通勤時間帯に放送されているラジオ番組の基礎英語と英会話を聞くというものであった。
ある朝の放送で、doctorという単語は私自身が想像しなかったことを意味する他動詞として用いられることを知った。<報告書・証拠などに>手を加える、勝手に変える、不正に変更する等を意味する単語として使われるが、語源辞典で調べると、1774年から「alter, disguise, falsify」の意味が加わったと記載されていた。「治療する」という意味は1712年からとなっているので、約60年の間に「改変する、隠す、偽造する」といった良からぬ意味が加わったことになる。
不正行為は医学や科学に留まらず、最近では建設業界の杭打ちデータ不正流用、そして自動車業界の排ガス不正や燃費データ不正が大きく報道された。文部科学省は、平成26年8月26日に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(文部科学大臣決定)を公表し、平成27年1月16日には厚生労働省も同趣旨のガイドラインを公表した。これらのガイドラインでは、特定不正行為として「(1)捏造 存在しないデータ、研究結果等を作成すること。(2)改ざん 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。(3)盗用 他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること。」の3つを挙げている。
‘doctor’の意味に該当するのは、改ざん(alteration,falsification, faking)ということになるが、100年後に他の2つ(捏造と盗用)の意味が加わっていないことを切に願うものである。