2016年1月号(第62巻1号)

医療現場での接遇

昭和大学病院 臨床病理診断科
福地 邦彦

病院勤務者が内から見る病院の姿と、患者さんが受診した際に見る病院の光景はずいぶん異なります。自身で医療機関を受診・入院する際につくづく感じます。これまでに数回患者として病院を受診し、入院・手術を受けてきましたが、自分が普段仕事をしている病院であっても、そこで働いているすべての職員に対して緊張感を抱いたものです。
そもそも人が医療機関を訪れるということは、健康時とは正反対の、心身ともに弱くなった状態、すなわち生物にとって最大の弱点をさらすことになります。その状態では、人は病院を頼りにし、信じ、畏敬するのみです。そして、悪い方には考えない(考えたくない)心境にあります。
私ども医療従事者は、弱くなった人とは、健康人に対するものと全く異なる接遇をしなくてはなりません。ホテル、空港、遊園地でのそれとは異なり、病院なりの特性があります。
元来、医療現場に悪意を持った職員はいません。ただ、極めて多忙であることは間違いありません。職員は接遇のトレーニングを受けて現場に臨んでいるのですが、意志の疎通が悪いことによるトラブルが頻繁に生じます。最近は、話したことはすべて文書に残し署名を受けておくことが日常的となっています。記録を残すことは確実に良い方法です。しかしそれ以上に、患者さんは弱っているものだということを念頭においた接遇の応用を実践し、よい関係を築くことが求められていると感じます。