2016年1月号(第62巻1号)

旅先、街角のスナップ

表紙シリーズ「旅先、街角のスナップ」のはじめに

皆様、はじめまして。レンジファインダーカメラ(距離計連動式カメラ)を手にして10年ほどになるでしょうか。東京の街角、路地裏を撮り歩き、それをブログにアップするようになりました。それだけでは飽き足らず、同好の仲間と写真展を定期的に開催するようになり、年に一度の長期休暇は今や展示ネタ探しの撮影旅行と化しています。
ひょんなことからそのブログが編集委員の方の目に留まり、今月から2年間に渡って伝統あるモダンメディアの表紙を担当させていただくことになりました。大変光栄なことと感じています。人生分からないものです。
スナップは主にライカを使って撮影しています。かのアンリ・カルティエ=ブレッソンや、ロバート・キャパらが愛用したカメラです。ライカも時代に取り残されぬようフィルムからデジタルに移行していますが、今もレンズは単焦点、ピント合わせはマニュアルで基本的撮影方法は昔と変わりません。レンズの描写はもちろん、古典的な撮影方法も気分を盛り上げてくれるものです。
散歩写真がメインなので統一テーマはありませんが、季節感のある作品を選んで、そこにちょっぴり撮影エピソードなどを加えてみたいと思っています。しばらくの間、どうぞおつきあい下さい。

夜明け前の富士

機材:LEICA M9-P、
レンズ:Summilux-M 50mm/f1.4

年頭を飾る写真はやはり目出度いものが、と考えて選んだ富士山。ご来光直前の、うっすら山肌が見えるくらいの時間帯に撮影した一枚です。小雪の候、凍えるほどの寒さでしたが、靄を伴って姿を現した富士は自然と涙がこぼれるくらい美しく感動的でした。富士はシルエットが美しいと個人的に思っていますが、いかがでしょうか。
これを撮影した場所は、山梨県南巨摩郡早川町という日本一人口が最も少ない町(数年前は大雪で集落が孤立してしまって大変でした)にある、七面山(標高1,982m)という日蓮宗の修行のお山。身延山久遠寺に属する敬慎院があり、身延山を守護する鎮守の神として七面大明神が祀られています。山頂近くには千人程も収容できるという大きな宿坊があり、信者の方々のみならず一般の登山客にも開放されています。以前から七面山や身延山を撮り続けている写真家さんとご縁があり、何度かご一緒させていただいているという次第です。
七面山敬慎院本殿から富士山は真東にあたり、春分と秋分の日には富士山の頂上から陽が昇る、いわゆるダイヤモンド富士を拝むことができます。この日の光は、敬慎院本殿を照らしたあと元伊勢、大山を経て出雲大社へと結び、これをご来光の道と呼ぶのだそうです。これが全て計算されていたとすれば、先人はなんと偉大なのでしょうか。
私はと言えば、これまで2回程秋分の日にご来光を拝むチャンスを得ましたが、いずれも富士は厚い厚い雲の中。まだまだ修行が足りないようです。

写真とエッセイ  水地 大輔

<所属>
東京逓信病院 血液内科医長 医学博士

<略歴>
1994年 群馬大学医学部卒業、東京医科歯科大学第一内科入局
2004年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了
2005年 東京医科歯科大学血液内科助手
??? 同年10月より現職

<主な展示>
・個展
「ordinary days」神楽坂 キイトス茶房(2008年)
・主なグループ展
「水」渋谷 ギャラリールデコ(2014年)
「旅ライカ」渋谷 ギャラリールデコ(2015年)他