2016年7月号(第62巻7号)

旅先、街角のスナップ(7)

湯宿さか本にて

いたらない、つくせない

機材:LEICA M9-P
レンズ:Summilux-M 50mm/f1.4

夏の休暇で必ず訪れる民宿があります。場所は能登半島の先端にある珠洲市。何年か前、雑誌に紹介されていた記事と写真を見て、なぜか強く惹かれるものを感じました。
その宿は、部屋に空調なし(夏は扇風機と団扇、真冬は休業)、テレビなし、トイレなしなど自らが「いたらない、つくせない宿」と言い切ってしまうくらい潔い宿で、宿の方から声がかかるのは、お風呂(鉱泉)が湧いた時と食事の準備ができたときくらい。あまりに放っておかれるので、実際怒って帰ってしまう客もいるそうです。でもそうじゃないんです。
森に包まれたような母屋はまるでお寺のように凛として佇み、そこで供される地の食材だけを使った料理の数々は、精進料理のようにシンプルでかつ滋味深く、それだけで訪れる価値のある素晴らしいものです。それ以上のもてなしは不要であり、その土地の本質を捉えるにはむしろ他には何もない方が好ましいと思えてくるのです。
そんな素敵な宿のある珠洲を舞台に、2017年9月3日から10月22日まで「奥能登国際芸術祭」(http://oku-noto.jp)が開催されます。美しい里山里海、食や独自の生活文化+アートがどんな新たな化学反応をおこしてくれるのか、今から大変楽しみです。

写真とエッセイ  水地 大輔

<所属>
東京逓信病院 血液内科医長 医学博士

<略歴>
1994年 群馬大学医学部卒業、東京医科歯科大学第一内科入局
2004年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了
2005年 東京医科歯科大学血液内科助手
??? 同年10月より現職

<主な展示>
・個展
「ordinary days」神楽坂 キイトス茶房(2008年)
・主なグループ展
「水」渋谷 ギャラリールデコ(2014年)
「旅ライカ」渋谷 ギャラリールデコ(2015年)他