2020年1月号(第66巻1号)

〇明けましておめでとうございます。一年分の沢山の出来事や思い出が詰まった年末の深夜、厳かな空気の中で2019年から2020年へと続く扉が開かれ、新しい毎日が待つ扉の向こうへと、およそ77億人もの世界中の人々がはじめの一歩を踏み出しました。

おかげをもちまして、本誌もまたひとつ齢を重ね、1955年の発刊から66年目の新しい春を迎えることができました。今年がどのような年になるのか、人それぞれにさまざまな思いを胸にされていることと思いますが、本誌もまた、創刊より受け継がれてきた良き伝統を胸に、時代に応じた新しい風を取り入れながら、社会への参画を続けていきたいと思っております。本年も変わらぬご支援をいただきますようお願い申し上げます。

〇今年の干支は「鼠」。風貌はなかなか可愛いものの、不衛生なイメージで嫌う人も多い。多産ということで「安産」のシンボルとしては一理あるが、「ヌスミ」や「寝盗み」を語源とする説があるように、人家に棲みつき食べ物を食い荒らしたり、ときに人までをも傷つけたり、田畑を荒らしたりと、人にとって不利益なことばかりが浮かぶ。鼠が干支になり、尊ばれているのは少々不思議である。

〇昔、鼠のうちでもとくに白鼠は、神の使者とされていたそうである。「古事記」には、大国主命(オオクニヌシノミコト)が須佐男命(スサノオノミコト)から言いつかり、荒野に射込んだ矢を探しているうち、須佐男命が放った火によって、大国主命は炎に包まれ窮地に陥る。あわやというところに鼠が現れ、大国主命を炎から救い、矢の在り場所へと導き、大国主命は鼠によって見事試練を乗り越えたという話がある。七福神のうち、豊穣の神である大黒天は、左肩に大袋、右手に打ち出の小槌、そして二俵の米俵の上に立っている。鼠と結びつきの強い米俵や多産という豊かさからか、大黒天は白鼠を使者としており、大黒天が大国主命の元に鼠を使わせたという話である。

〇わが国では明治32年にペストが流行し、対策として、病原菌を広げる鼠を駆除するため「鼠の買い上げ」が行われた地域がある。東京市では、奇しくも子年の明治33年の1月から、鼠を交番に持っていけば1匹5銭で買い上げてくれたそうである。

落語の演目「藪入り」では、藪入りの束の間の休みに、奉公先から息子が実家に戻るが、母親がこっそり小遣いを足してやろうと財布を開けたところ大金が入っていたため、父親は息子が盗みを働いたものと思い込む。息子を問いただしたところ、鼠を捕って懸賞を当て、両親を驚かせようと持ち帰ったお金であることを涙ながらに訴え、親孝行な息子の思いに父親が大いに反省する。一方、鼠と言えば、天敵は猫である。明治38年に「ホトトギス」に発表された夏目漱石の「吾輩は猫である」では、地元で幅を利かせる「車屋の黒」という猫が、“吾輩”に向かって鼠なんぞ沢山捕ることができると自慢話をするのだが、最近はその鼠を車屋が取り上げて交番に持って行く、鼠にはだれが捕ったと書いてないので車屋が金を貰う。それなのに、こちらにはろくな食べ物がまわってこない、人間は盗人だとぼやく場面がある。黒も気の毒だが、世の中にはもっと悪い輩がいて、懸賞欲しさに鼠を増やして交番に届けていたふとどき者もあったというが、本当だろうか。

〇ウォルト・ディズニーは、何度も壁にぶつかりながらも夢を持ち続け、飼っていた一匹の鼠から大きな夢を叶えました。皆様はどのような夢をお持ちでしょうか。皆様の夢に近づく良い一年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。

(大森圭子)