2019年12月号(第65巻)

〇今年も残り少なくなり、何かに急き立てられるような気持ちで毎日を過ごす時期となった。年内に残された数多くの宿題と、忙しいこの時期には風邪やインフルエンザも流行し、いくつものハードルを越えたり、倒したりしたのちに、ようやく正月を迎えることになる。
〇古くは、薪や炭などで汚れた天井の煤などを払う「煤払い」や、門松や料理のために使う薪を採りに行く「松迎え」など、正月を迎える準備に入ることを「正月事始め」といった。江戸時代初期まで使われていた暦 宣明暦の12月13日に「煤払い」が行われていたことを起源として、地域によって多少異なるものの、いまも12月13日を正月事始めとしているところが多い。「煤払い」は神社仏閣の行事としてニュースなどで見ることも多いが、始まりは平安時代の宮中での風習で、煤を払うというより厄を落として、清らかに歳神様をお迎えするための儀式であったようだ。
「江戸府内絵本風俗往来」(文・絵菊池貴一郎)には「煤払ひ大掃除は此月より市中家毎に行はざるはなし(中略)武家の小禄なるもの町家の富豪なる古家には皆家々に舊例ありて其式を行ふ通り町筋にては夜に入て煤取を行ふ家多し…」などとあって、繁忙期のため、昼間は仕事に追われる召使や、出入りの職人や鳶などが夜になってから金持ちの家に大勢集まり、煤払いなどして屋敷をくまなく掃除し、終わると祝儀や手ぬぐいなどを貰い、また酒や肴もふるまわれ、十分楽しんだところで帰っていたことが記されている。この様子を描いた絵では、家の表から中から、軒上や二階屋根の上にまで、はしごをかけて提灯をかざし、法被を着た大勢の男たちがせっせと働いている。荷物を運び出す者、あっちとこっちで畳を持って棒で叩いて塵を落とす者、桶を持って水を撒く者、軒の上で拭き掃除をする者、女たちも何やら井戸端で料理の下準備をしている様子で、それぞれが仕事に精を出し忙しそうである。
今でいうところの、職場の大掃除といったところであろうか。働き者の先人を見習って、残りの日々もせっせと仕事に精をださなくてはなるまい。
〇今年も本誌へのご支援をたまわり、誠に有難うございました。
また、3 月号で行ったアンケート調査にご協力いただいた皆様へ、あらためて御礼申し上げます。
新しい一年が、皆様にとって良い年になりますように。来年も変わらぬご支援のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

(大森圭子)