2019年11月号(第65巻11号)

〇今年の冬の始まりは、この季節にしては珍しく気温が高めの日が多かったせいか、今一つ実感がわかないものの、11月ともなればそろそろ、今年を振り返って懐かしく思ったり、反省をしたり、年内の予定を思い浮かべては心がせいたり、楽しみにしたり、胸中が波立ってくる季節でもある。
〇日々の暮らしのなかではさまざまなことが起こるが、毎年、乗り越える辛さがあれば達成感のご褒美があり、積み重ねによるかけがえのない自分自身の成長もある。一方、仕事に向かう途中の通勤電車の混雑にも辛い思いがあるものの、達成感というような何かは得られない。終点前に車中を流れる「車内混雑大変お疲れ様でした」の車掌さんの声に、せいぜい心で頷き癒されることがささやかなご褒美といえるだろうか。
〇電車の混雑率は、一定時間の実際の乗車人数(輸送人員)÷一定時間の列車の定員(輸送力)で計算される。「DIAMOND online」(2017.7.14)の記事によれば、吊革につかまっていれば何とか新聞が読めるくらいであれば混雑率は200%、ドアから入ろうとした者が押し出されながらもどうにかおかしな体勢で乗ることができるのが混雑率250%の目安だそうだ。1960年代の高度成長期には混雑率は300%もあったそうで、窓ガラスが割れるのは日常茶飯事であったとのこと。靴を無くす人もあるので、秋葉原駅では草履とサンダルを貸し出していたそうである。今では、各線の努力や新たな競合路線の登場などでも混雑率は大きく緩和されてきており、年々通勤は楽になっている。
他にも、2014年3月10日、JR 東日本ではスマートフォン用の「JR 東日本アプリ」をリリースし、京浜東北線の位置情報や東京駅のコインロッカーの空き状況、また山手線の列車の車両ごとの混雑度や温度等についてリアルタイムで情報発信を行うようになった。さらに今年の4月10日には新型アプリがリリースされ、東北・関東・信越・新幹線や首都圏の路線の運行情報や位置情報や、時刻表や駅構内の情報なども知ることができるようになった。私鉄とも連携していること、英語・中国語・韓国語にも対応しており至れり尽くせり、通勤など電車での移動を強力にサポートしてくれている。
〇長年の歴史ある通勤電車でのある一日、爪先ほどの僅かな陣地取りのためにいつものように小競り合いや舌打ちが勃発しているぎゅうぎゅう詰めの電車の中で、たった一人微笑みを浮かべているご婦人を見つけた。目が合った瞬間「一緒にがんばりましょうね」といわんばかりのチャーミングな目くばせに、私の中の荒立つ気持ちがみるみる消えていった。またある一日には、目的の駅に着くも混雑でなかなか降りられずもみくちゃになっていたところ、気づいてくれた若い男性が「まかせて!」とひとこと言って「すみません、降ります!」と大きな声を出してくれ、ドアまでの道を作ってくれた。良いことのかけらもないような殺伐とした通勤電車にも、大事なことを教えてくれる素敵な出来事が乗車していることが大きなご褒美といえるだろう。

(大森圭子)