2019年9月号(第65巻9号)

〇ことの終わりはことの始まりでもある。
季節が大きく変わるこの時期、頬を撫でる風がだんだんと冷たくなっていき、いつの間にか空も遠くなっている。

桐一葉 日当たりながら 落ちにけり(高浜虚子)

日差しは眩しいながらも最早、暑さは感じられず、ゆっくりと季節のバトンが夏から秋へと手渡されたことに気づかされる。同時に、今年の残り時間が気になりだす頃でもある。
〇先日友人から「蚤の話」を聞いた。蚤は、体長が1センチにも満たない小さな体ではあるが、後ろ足が発達しているので、その脚力で自分の体長の60倍もの高さを飛ぶことができるそうだ。
しかし、ひとたび蚤にガラスのコップを被せると、コップの中で何度も跳んでいるうち、コップの高さまでが限界と思いこんでしまい、コップを外しても、もうコップの高さまでしか跳ばなくなるという。
朝礼にうってつけの有名な話だそうだが、初めて聞いた身としては、架空のコップのなかに自分から潜り込み、狭い世界でジタバタした挙句ここが限界と決めつける、日頃の自分への戒めとなるインパクトの強い教訓である。
架空のコップなどからはさっさと抜け出し、高いところまで跳んでいる仲間の姿を見れば、自分にもできる力が備わっていることを思い出せようというもの。新しい季節の訪れを機に、気持ちも新たに、新たな目標に向かって走り出すのも良いかもしれない。

(大森圭子)