2019年9月号(第65巻9号)

桜が花盛り(2)

自治医科大学名誉教授
櫻林 郁之介

桜の木の寿命は短いのではないかと言われている。本当にそうなのか。特にソメイヨシノは明治にエドヒガンとオオシマザクラの雑種の交配の単一の木から作られた種(クローン)で、短い時間に大きくなり、枝ぶりもよく花を咲かせるので、明治政府が推奨したこともあり全国に広まったと言われる。しかし寿命が60年程しかないので、今ある全国の桜の名所はそろそろ衰退してしまうのではないかと心配の声があがっている。そこで少し調べてみた。
木の寿命を調べるのは樹木医といわれる人達の仕事である。庭木や街路樹などが痛んだり病気になると人間の医師と同様、原因を究明して診断して、治療を行い、かつ病気にかからないように予防したりするのが仕事であり、全国にある樹齢千年と言われるような古木、名木もこれらの樹木医によって管理されている。
また、桜守と言われる桜を専門に管理する人達がいる。以前にテレビでこれらの人達の活躍ぶりを放送していたのを覚えているが、桜守は樹木医とは違い、桜専門であり、桜のことを全て知り尽くしている集団である。いわば桜の専門医ではなかろうか。後で調べてみたら、東京の駒込の六義園や小石川後楽園の枝垂桜が衰弱した時に依頼を受けて見事に再生させた玉木恭介さんという人であった。
さて、ソメイヨシノの寿命は本当に60年なのだろうか。桜守の話の中に、桜も手入れをしなければ寿命が短くなるのは人間と同じで、木につく細菌や虫の影響、さらにお花見の人が沢山訪れるために木の根を傷めたりするので、短命になるという。しかし、実はソメイヨシノには特別の事情があることがわかった。ソメイヨシノは成長が早い分、寿命が短く、さし木で植えられているため種をつけないか、つけても発芽しないので、自力で繁殖できないという。また、隣に植えられている桜は親が同じであるため、遺伝子も双子のように同じであるので、隣の桜の枝と重なるので桜並木を作りやすさはあるが、ますます自力繁殖ができない。それが重なって短命となるということである。土壌を改良したり、根を継いだりすることができても限界があるようで、しかも同じところに桜を植えることもできない。戦前に植えられたソメイヨシノの桜並木は将来違う場所に作るしかないのかもしれない。各地で有名な名木はほとんどがヤマザクラ、エドヒガン、シダレザクラであり、1000年、2000年を越すものも少なくないが、ソメイヨシノにはできない。