2019年8月号(第65巻8号)

〇今年は梅雨が長かったせいか、梅雨明けすると突如猛烈な暑さに見舞われた。東京でも30℃を超える真夏日や35℃を超える猛暑日が続いた時期もあって、8月の日最高気温の月平均値は32.8℃、過ぎた日々を振り返るだけで体感温度が上がりそうである。気象庁の用語の定義で「熱帯夜」は「夜間の最低気温が25度以上のこと」であるが、この夏も多くの熱帯夜に悩まされた。なかには熱帯夜で夜中に目覚めたことで、渋野日向子のAIG全英女子オープンでの優勝の瞬間をリアルタイムで見ることができた、と喜んでいた友人もあったが、毎日冷房をつけたまま眠ったり、暑さに目が覚めてしまったり、見えない鎧をまとっているような、重くけだるい疲れが体に張り付いたままの朝も多くあったように思う。
「残暑」の時期は、立秋(8月8日頃)から秋分(9月23日頃)まで。これからもまだ暑さが続くことを思うと少し憂鬱なような気もするが、夏が終わってしまうことを寂しく思う気持ちが入り混じるのは、幼いころの楽しい夏休みの記憶のせいだろうか。
〇8月のある土曜日、友人に誘われて東京・目黒にある目黒雅叙園で開催されている「和のあかり×百段階段2019」という企画展に訪れる機会を得た。
目黒雅叙園の百段階段は1935(昭和10)年に建てられた木造の館にあり、階段を昇る途中途中に趣向の異なる幾つもの部屋があって、著名な芸術家が装飾を施した天井や欄間は見る人を飽きさせない。2009(平成21)年には東京都の有形文化財にも指定されている、飴色に輝くケヤキ板の階段でつながれたノスタルジックな美の空間である。
今回のあかり展は毎年開かれているそうで、さすが本誌デザイナーのF氏はすでにご存じであったが、初心者の私は驚くことばかり。会場に向かうエレベーターの扉があくと、いきなり出迎える青森ねぶたの山車灯篭の迫力に度肝を抜かれ、階段を昇るごとに部屋に広がるランタンや行燈、竹細工、和傘、切り絵、いけばなや硝子細工など、日本の伝統的な職人技とあかりとが融合された幻想的な世界に夢心地になった。日ごろ日本の職人技に向き合う機会はそう多くないが、今回の展示でその素晴らしさをあらためて知り、日本の伝統が可能性を広げながら受け継がれていることを喜ばしく思った。

(大森圭子)