2019年4月号(第65巻4号)

〇一面に青色ペンキを流しこんだような、どこまでものっぺりとした青空。ぼーっと見上げていると、季節が変わったことに念を押して気づかせるように春風が頬をかすめてどこかに飛んでいく。通勤途中にはこの春から共に歩むことになった新社会人たちの姿が目を引く。きらきらと輝きを放つその姿は、柔らかな新芽のごとく希望に満ちている。道端の木々を見れば、元よりあった木々の葉が、どの枝であろうが分け隔てなく新芽の上に重なり、新芽達を守っているようにも見える。生き物の営みはたぶんどこもそう大きくは変わらない。いつも通りの生活のなかにもさまざまな発見をする春の日々。それぞれが自ずと新たな立場になり、一歩踏み出す季節である。
〇4月24日は「日本ダービー記念日」である。昭和7年(1932)のこの日に、イギリスの「ダービーステークス」にならい、東京の目黒競馬場にて日本初の「ダービー(東京優駿)」が開催されたことに由来する。第3回からは場所を府中の東京競馬場に移して開催されており、開催時期も5月となっている。
馬の歴史はたいそう古く、最古の馬類の化石はおよそ6,500万年前の地層から発見されたそうだ。今の馬に近い形になったのは約400万年前、現在の馬の先祖は200万年前には生息していたそうである。人と馬とは古代から関わり、軍事用、農耕用、運輸用などとして馬はいつも人の生活の傍らにあった。高浜虚子の次女で、女流俳人として昭和期に活躍した星野立子に「緑陰に馬は草食み人は臥し」の俳句があり、この句からも馬が人とともにあったことが窺える。一方、乗馬など、娯楽としての乗用の歴史はまだ浅く、わが国では明治時代に入ってからだそうである。
さて昨年、日本ダービーの開催日が近づいた頃、突如新種の馬にお目にかかった。JRAのPR用に用意された馬ロボットである。過去の優勝馬と等身大で精巧に作られたロボットは、尻尾を振ったりまばたきをしたり、動きも本物の馬とそっくりで区別がつかないほど。馬ロボットは何体かあり、幾つかの駅や街で披露されたようだが、府中競馬場駅と同じ路線を使う私は、会社帰りや買い物を終えた人でごった返す新宿駅構内で馬ロボットに遭遇した。初め見たときは、なぜこんな人ごみの中に馬が鎮座しているのかと大変驚かされ、おずおずと近寄っていき、暫く様子を見た後にようやくロボットと確信した。昔の人が見たら腰を抜かすかもしれないが、そのうちに、馬ロボットのレースが開催される日が来るかも知れない。

(大森圭子)