2019年1月号(第65巻1号)

〇いつも本誌にご支援をたまわり、誠に有難うございます。おかげをもちまして『モダンメディア』は今年もまた歩み始めました。本年も皆様からのあたたかいお気持ちを支えに、がんばってまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。
〇冬の空気は乾きがちであるが、この冬の東京はとくに雨が少なく、カラカラ天気が続いている。おまけに街中を縦横無尽に吹き荒れる北風に様々な塵やほこりが舞い上がる。そんな毎日にうんざりして、梅雨時のあの鬱陶しいじめじめさえも恋しく感じられるこの頃である。
〇ある日、「ガーガー」といういつものカラスの鳴き声とは違う、「カッ、カッ、カッ」という鳴き声が耳に入った。あたかも笑っているような響きに嫌な予感がして外に出てみると、ゴミの収集袋を穴だらけにする悪さをしていた。鳴き声に早く気づいたおかげで被害はなかったため、カラスの甲高い鳴き声に感謝すら覚えた。
音というのは、湿度が高い中ではエネルギーを消失し、受ける側にも吸収されやすく、伝わりかたや受ける側の反応が鈍くなるそうだ。その反対に湿度が低ければ響きは良いらしく、クラシック音楽がヨーロッパで発展したのは湿度の低さにも関係があるそうだ。カラスの声に気づけたのも、冬の乾いた空のおかげでもあったろうか。
〇悪さばかりが目立つカラスには困ったものであるが、寒空にゴミあさりまでして、必死に生き延びようとしているカラスが哀れにも思えてくる。古くは、月に兎が住むように、太陽にはカラスが住んでおり、神の遣いともされてきた彼らの現実は厳しい。
いつも辺りを飛んでおり身近な鳥でもあるカラス。俳句の世界ではいわずと知れた季語があるが、1年中いるカラスには何か一文字を足し、「初鴉」(新年)「寒鴉」(冬)「鴉の巣」(春)「鴉の子」(夏)が季語として使われる。ここで使われる漢字「鴉」という字に「牙(ガ)」が付いているのは、「ガーガー」いう鳴き声を表しているという説がある。またもうひとつ、「鳥(とり)」の漢字の棒を一本とって「烏(からす)」とした理由は、烏は全身真っ黒でどこが目かわからない事から、象形文字である「鳥」の字のうち、鳥の目を表している一本線をとったからだそうである。
〇大正時代の石川啄木とまで呼ばれた俳人富田木歩の俳句に「木の如く凍てし足よな寒鴉」がある。木歩は誕生の翌年に熱病で足を悪くして歩けなかったこともあってか、カラスの足を一層気遣ったのだろうか。関東大震災の火事で親友の背に乗せてもらい川に飛び込んだものの、24歳の若さで溺死をしてしまった木歩。俳句に込められた彼のやさしい気持ちに心を打たれ、カラスの見方も少し変わりそうである。

(大森圭子)