2018年7月号(第64巻7号)

〇このたびの豪雨災害により、被害を受けられました方々に心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。
〇今月は2018FIFAワールドカップロシア大会やウィンブルドンテニス2018が開催された。試合を観戦し、熱戦を繰り広げた日本選手の勇姿に感動し、元気をもらった方も多くあると思う。誰も皆、今年の前半戦が終了し、後半戦に突入する7月-ここであらたに前半戦の好調に乗っていくか、はたまた前半戦の反省をばねに奮起するか、ともあれ、悔いのない後半戦にしたいものである。
〇日中の猛暑の熱が、行き場を失ったように漂う夕べ、涼やかなイメージの加賀料理をいただく機会に恵まれた。
加賀の郷土料理といえば、まっ先に治部煮が思い浮かぶ。治部煮は、鴨肉や生麩、青菜、しいたけなどを汁で煮て、とろみをつけたもので、わさびを添えていただく。大変美味なので、家でまねをして作ってみたこともあるが、残念ながらただの煮物になってしまった。
「治部煮」の名の由来は、朝鮮からこの料理をもちこんだとされる豊臣秀吉の兵糧奉行であった岡部治部右衛門の名に由来するという説、料理をするときの「じぶじぶ」という音を由来とする説、焼いた鴨肉の切り身を汁にいれた「じぶ」という料理と混同したなどの説があるようである。
〇色々と楽しい会話に盛り上がり、料理の説明を聞きそびれていたせいで、知らぬ間に見慣れない一品が目の前に運ばれていた。葉物のお浸しのようだが、葉から染み出たつゆが信じられないような美しい紫色である。これは何だろうかと箸で突いていたら、きちんと料理の説明を聞いていた方々から「金時草」という加賀野菜であると教えていただいた。
少し粘りがあって、以前食したことのある、マツバボタンと同属の「スベリヒユ」(雑草)のお浸しを思い出したが、こちらは肉厚ではなく薄い葉っぱ。ダンディーな冷酒の傍らに寄り添う品の良いご夫人といった感じの風情である。
家に帰って「金時草」を調べてみると、葉の裏が赤紫色をしており、これが「金時芋」の色と似ていることから「金時草」の名が付いているそうである。熊本県では、水前寺地区の湧き水で栽培されたことから「水前寺菜」があり、愛知県では「式部草」、沖縄では「ハンダマ」の呼び名があるらしい。
18世紀に中国から日本に渡来したもので、暑さにすこぶる強く、夏場に繁茂するそうだ。インターネット上には、茹で汁の美しい紫色を利用したゼリーのレシピを紹介したものもあった。
夏には夏の旬のものをいただくのが一番。「金時草」は鉄分をはじめ栄養価も高いそうで、暑い夏を乗り切るのにひと役かってくれそうである。

(大森圭子)