2018年4月号(第64巻4号)

〇この季節、夏を思わせるような暖かい日が続いたと思えば、冬物の衣類を引っ張り出して羽織りたくなるような肌寒い日が訪れる。この時期の気温変動の激しさは、時折視界に入るのっぺりしたアスファルトですら日ごとにおもむきを変えて、ある日はざらざらとして熱を帯び、翌日には堅く芯から冷えきっているのが感じ取れるほどである。
〇早春のこの時期、日替わりの天気に翻弄されながらも「三寒四温だから仕方がないね」と諦めて受け入れることも多い。しかし、実は「三寒四温」は日本ではなく、元は中国の東北部や朝鮮半島北部の冬の気象現象を表す言葉だそうである。
冬季、シベリアや中国東北部で発達するシベリア高気圧から噴き出す寒気の強弱によって、3日ほど寒い日が続けば4日ほどあたたかい日が続く7日周期で寒暖の波がおとずれる現象が起こり、冬のこのような気候変動を「三寒四温」と呼んでいた。
この言葉が日本に渡ってきた当初は、中国と同様に冬に使われる言葉であったようだが、日本では滅多にこのような現象は起こらず、むしろ早春のほうが、低気圧と高気圧が交互に訪れる影響で、数日のうちに気温が大きく変動する。これが「三寒四温」のイメージにあてはまり、春に使われる言葉に変わっていったようだ。異国の文化を独自のものとする日本の器用さをこんなところにも垣間見ることができる。
ちなみに日本には「小春日和」という言葉があるが、本来、晩秋から初冬に使われる言葉であったものが、真冬や春まだ浅い季節に使う言葉と誤解している例も多いと聞く。
〇このように、時代の流れや海外との差異によって自然に言葉の意味が変わっていくことにさほど心配はないのだが、古来より使われてきた気候に関する言葉の数々が、やがて温暖化の波に沈んでしまうことがないよう祈りたいこの頃である。

(大森圭子)