2018年4月号(第64巻4号)

日本の四季彩巡り(4)

静かなる妖艶

撮影地:
東京都あきる野市
龍珠院

多摩川流域にはいくつかの桜の名所があり、多摩川夢の桜街道、八十八カ所として選定され、その75番目の花の札所は約600年前に開創された山寺、龍珠院である。この龍珠院にあるしだれ桜は形、色、背景などのバランスの良さからみると最高レベルに達していると自分では思っている。JRでは武蔵五日市からバスで、車では圏央道のあきる野インターからそう遠くなく、東京から近いわりに案外知られていない。龍珠院のしだれ桜に心を引かれるのはその容姿と背景である。朝陽がでる前、背景のブルーの山が白みかけ、三本の幹から広がって咲くしだれ桜は、ほどよく周辺の山に溶け込んでその妖艶な姿が浮かびあがる。ここの写真を撮るのが難しいのはいかに背景の山々を欠けることなく取り込むかである。三脚を立てて高さを調整しその場所を探すがその範囲は狭い。そして3本の幹から出る枝からでる桜を重なることなく追えるかである。朝靄が流れてくればさらに妖艶さを増す。桜の根元にはうす紫色のミツバツツジが咲きその色合いとの調和も美しい。朝陽が差し込むと花の色は、ほのかな赤みからほどよい赤みとなり、満開の花びらから風の乗って散る桜も趣がある。寺の駐車場も整備され、アクセスも比較的良好で、調和のとれたこの桜に毎年訪れたい気持ちになる。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。