2017年10月号(第63巻10号)

〇この季節に長く降る雨は、やがて訪れる季節にかけられた薄絹のベールのようである。降りしきる雨を何度もくぐりぬけるたび、ベールをめくるように秋は色彩をあらわにし、赤や黄や色とりどりの木々の葉に彩られた、風さえも色づいて見える美しい季節が現れた。もう何枚かのベールの向こうにはうっすらと冬の気配も...そろそろ冬支度、の季節である。
〇冬支度といえば、指先の冷たさを防ぐため、早々と手袋をはめる人をちらほら見かけるようになった。手袋には5本指のもの、親指が別になった二またのもの、指先のないものなどの種類があり、それぞれグローブ、ミトン、ミットなどの名称で呼び分けられている。
防寒用としての手袋の歴史はかなり古いようで、古代ギリシア紀元前4-5世紀の軍人・著述家であるクセノポンの作品には、ペルシア人が防寒用として手に5本の指に分かれた皮手袋をしていたと記されているそうである。一方、儀式や僧侶などの間では、手袋は神聖なもの、また身分を示すものとして用いられもする。また、危険物からの保護、体の洗浄、美術品や骨董品を扱うためなどにも手袋は用いられる。
民間の婦人の間で、手袋が装飾用として使われるようになったのは12世紀になってからで、16世紀のフランスでは、皮手袋の匂いを消すために香料を使用したことがきっかけで、爆発的に香料を染み込ませた香り手袋が大流行した。これをきっかけに、手袋商組合はやがて香料商業手袋組合になり、皮製品の産業が活発であったグラースという街は、のちに香料の町として発展したのだという。
〇19世紀になると女性が手を小さく見せることが流行し、一日中窮屈な手袋をはめて生活するという女性が多くあらわれ、世間の批判を浴びたそうである。最近では、スリムなモデル体型を目指して女性が食事制限をし過ぎることが問題になり、あまりにも痩せたモデルは使わないようにするブランドのニュースがあったが、女性が美を追い求める批判を浴びるほどの熱意は、どの時代も同じようである。

(大森圭子)