2017年9月号(第63巻9号)

〇冴え渡る濃紺の夜空に、シャンパン色の三日月が気品ある輝きを放っている。その真下には月の色に染められたひと筋の雲が寄り添うように浮かび、月の話を聞いてあげているかのようである。この美しさは、一日の仕事を終えた帰り道に用意されたご褒美であろうか。
空を見上げている間は、下界の営みとは無関係な静かな時間を月や雲と共有できるものの、気がつくと空も遠くなり、空気も澄み切って、どこもかしこも秋一色である。次第に、今年に残された時間に意識が向くようになり、残りの日々を無駄にしてはいけないと気を引き締める頃になった。
〇上野動物園にジャイアントパンダの赤ちゃんが生まれ「シャンシャン」と名づけられた。まだ公開はされておらず、映像を通して多くの人がその成長をあたたかく見守っている。上野動物園は日本初の動物園。開園は1882(明治15)年。今年で135年もの長い歴史のある動物園である。ホームページに載っている年表によれば、1882年に「うをのぞき」と称する日本初の水族館を公開し、その後明治から大正にかけて、世界のあちこちから、トラ、シフゾウ(四不象)、フタコブラクダ、オランウータン、ハリモグラ、ライオン、ホッキョクグマ、キリン、テングザル、カバ等々がこの動物園に到着している。なかでも、動物園に近い秋葉原で、曲馬団の興行中に生まれたトラをヒグマと交換で入手したという事実や、日清戦争の戦利品としてフタコブラクダを入手していることなどが興味深く感じられた。
1972(昭和47)年、ジャイアントパンダ(「カンカン」「ランラン」の2頭)がはじめて日本にお目見えしたのも上野動物園。当時、家の近所の子供の間では、その頃流れていたCMの替え歌「リンリンランランリュウエン、カンカンランラン動物園」を誰もが口ずさんでいた。パンダグッズも大流行して、私はパペットのように遊べるパンダを模した毛糸の手袋(白い手袋の親指と小指が黒、手の甲に目の部分とその先に黒い鼻が付いていた)を買って貰い、大喜びで遊んでいたことを覚えている。上野動物園は当社からそう遠くない。いつになるか分からないが、人の出も落ち着いた頃に一度はパンダにお目にかかりたいと思っている。

(大森圭子)