2017年9月号(第63巻9号)

旅先、街角のスナップ(9)

暮らすように旅をする

機材:LEICA M9-P
レンズ:Summilux-M 50mm/f1.4

佐世保港から高速船で2時間(フェリーなら3時間)、博多港からなら夜行フェリーで5時間。小値賀(おぢか)島は長崎県五島列島の北端に浮かぶ小さな島です。小値賀町は大小17の島々で形成されています。そのひとつである野崎島には世界遺産の候補となっている旧野首教会があり、潜伏キリシタンの歴史を見ることができるのですが、残念ながらこの時は日程の都合で寄れませんでした(島へ渡る船の予約が必要です)。
小値賀町は、今でこそ一般的となってきた古民家ステイや民泊の導入に率先して取り組んできた先進的な島です。NPO法人「おぢかアイランドツーリズム※1」が旅の窓口となっていて、安心して旅のプランを立てることができます。この時利用した古民家は、ホテルのような空間にリノベーションされており、大変快適に過ごすことができました。しかし小値賀島滞在の魅力は、一般の家庭に宿泊し、家族と同じように生活をする民泊にあるのではないかと思います。
島には4代100年続く島唯一の活版印刷所があります。4代目の横山桃子さんは、島外の大学に通っていた頃、活版が衰退してしまった今だからこそ魅力があると感じ、父親の跡を継ごうと決意したそうです。実際にお店を訪れて名刺作成の一部を体験させていただきました。膨大な活字棚から目当ての字を拾い出して組み、一枚一枚印刷する作業は文字通り手間ひまかけたものでしたが、それだけに作り手の温度を感じるように思いました(現在4代目は修行中のため、新規注文をお休みしています。詳しくは HP※2をご覧ください)。
写真の草原は、牛の放牧地長崎鼻。海をのんびり眺めながらくつろぐ牛たちを見ていたら、横山さんのお父さんに言われたことを思い出しました。「都会の暮らしに疲れたらおいで」

※1 おぢかアイランドツーリズム ojikajima.jp

※2 晋弘舎活版印刷所 ojikappan.com

写真とエッセイ  水地 大輔

<所属>
東京逓信病院 血液内科医長 医学博士

<略歴>
1994年 群馬大学医学部卒業、東京医科歯科大学第一内科入局
2004年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了
2005年 東京医科歯科大学血液内科助手
??? 同年10月より現職

<主な展示>
・個展
「ordinary days」神楽坂 キイトス茶房(2008年)
・主なグループ展
「水」渋谷 ギャラリールデコ(2014年)
「旅ライカ」渋谷 ギャラリールデコ(2015年)他