2017年6月号(第63巻6号)

〇梅雨入りといわれると、その日を境に雨や湿度に急に意識が向くようになり、それまでとさほど変わりのない天気でも、一層不快に感じられるようになるのには困ったものである。
〇繰り返し降る雨と高い気温のせいで、家の周りのほんの僅かな敷地にも容赦なく雑草が生い茂り忽ちジャングルのようになってしまった。この状態を「草ぼうぼう(茫々)」というのだろう。「ぼうぼう」が付く言葉には他に「髪の毛がぼうぼう」や「火がぼうぼう」があり、「ぼうぼう」には奔放に乱れている様子を表す意味があるようだ。「草ぼうぼう」を英語に訳すと“covered with weeds”となるだろうか。日本語では「ボーボー」の響きの面白さが手伝ってか、英語で聞くよりも激しく草が生い茂っている様子が思い浮かぶ。日本語に込められた先人の粋なセンス、日本語の面白みにまた心を惹かれた。
〇猫じゃらし(エノコログサ)の草丈は通常40-70センチ。そろそろいっぱしの丈になろうというツワモノがわが家の庭でのびのびと風になびいているのを見て、仕方なく一念発起し、蒸し暑さのなか帽子を被り、長袖、長ズボン、手袋をはめて草取りに臨んだ。梅雨のおかげで土は緩み、殆どの草はすんなりと根こそぎ抜けるのだが、中には厄介なものがあり、全体重をかけて引き抜こうとしてもびくともしないものもある。さらに、綿を這わせたように白く覆われた茎、慌てて逃げ出す植物に化けた蟷螂、土から這い出す無数の団子虫など恐ろしいものが嫌でも目にはいる。早くに手をうたなかったことが悔やまれるが、時すでに遅し。悲鳴を上げそうになりながらも何とか仕事を終え、恐ろしい記憶は封印。
さて、夜も更けお茶を飲み寛いでいると、いつの間にか湯のみ茶碗のふちを何かがグルグルと回っている。見たこともない小さな真っ白な綿のような生き物、恐怖の再来である。何者かと調べてみるとアオバゴロモという昆虫の幼虫で、尾の先から蝋物質を分泌し、その真っ白な粉末を全身にたっぷりとまとっているそうである。幼虫は集団を作り、宿主植物を粉まみれにするそうで、昼間に見た、植物を真っ白くした犯人がようやく判明した。
招かざるお客のせいで、それからというもの、白い糸くずを見ても動くかどうか、暫くの間じっと見守る癖が付いてしまった。

(大森圭子)