2015年7月号(第61巻7号)

〇入れ替わり立ち替わりやってくる猛暑や台風に悩まされた7 月も終わりに近づき、今日の東京は、嘘のようにだんまりの曇り空である。
こうなるとギラギラした太陽が鎮座するエネルギーに満ちた真夏の青空も恋しくなるもので、どんよりとした冴えない天気のまま、夏が通り過ぎていかないよう心で祈るのである。
〇家の小さな植え込みのコーナーに随分前から柑橘系の何かの植物の木が植わっている。手入れが悪いせいか小さな実を付けるが、それも何かに利用してみようと思う頃には目ざとく鳥が見つけ、忙しく行き来をしては気まぐれにあちこち啄ばんでしまう。
調べてみると恐らく、柚子よりも低木で小さな実を付ける「花柚子(一才ゆず)」と呼ばれる樹木ではないかと思っている。
この木の下に貼られたタイルに枯葉や塵が目立つので、せっせと掃き掃除をするも、不均一な大きさの丸い粒がコロコロとあちこちに散らばり、てんでまとまらない。腹立たしい思いで見上げると、細い枝には相当不釣り合いな丸々と太った芋虫を発見した。思わずぎょっとする私に芋虫は知らん顔。
何を遠慮することもないと思うのだが、縁あってこの木の上で生を受け、この日私に出会うまで、数多の天敵にも負けず、密やかに成長を重ねてきた芋虫には気迫のようなものが漂い、これに敬意を表してこちらがそっと退散した。
緑色をして胸のあたりに目玉のような二つの模様がついた姿。アゲハ蝶の幼虫に違いない。
1 ミリほどの卵から孵化したばかりの幼虫は黒くボツボツと体中突起のある姿。うっかりすると毛虫と間違って退治されてしまいそうだ。孵化した幼虫はまずは自分が出てきた卵の殻を食べて栄養を補給する。これを一齢幼虫といい、ここから脱皮を繰り返し二齢~四齢幼虫までは鳥の糞のような黒字に白い帯が入った姿をしている。あたたかい気持ちで見守る心がなければお世辞にも可愛いとは言えないが、これも悪臭を放つ臭角同様に天敵の鳥や虫たちから身を守る手段の一つなのであろう。
私が見たのは、最後の脱皮を終え、黒と白の野暮ったい容姿から美しい黄緑色に変身した五齢幼虫である。この段階では旺盛な食欲で葉を食べて5 センチほどになるまで成長し、やがて蛹になる。
よく見かけるアゲハ蝶だが、幼虫の体に卵を産み付けるハチの存在などもあり、無事に羽化をして蝶になれるものは少ないときく。私が見た幼虫はかなり大きくなっていたので、無事であれば間もなく羽化するだろう。もう幾ら探しても幼虫も蛹も見つけられないが、アゲハ蝶の姿になった元芋虫にいつか再会したいものである。

(大森圭子)