2014年5月号(第60巻5号)

〇五月といえば思い出すのが童謡「背くらべ」である。「柱の傷はおととしの五月五日の背くらべ ちまき食べ食べ兄さんがはかってくれた背のたけ…」子供の頃、この歌を口ずさむたび、興味を引くのは「背くらべ」ではなく、もっぱら「ちまき」のほうであったことを思い出す。
〇日本での粽は、もち米やうるち米、米粉などを練って作った餅を笹の葉や竹の皮に包み、井草で縛って形づくり、蒸したり茹でたりして食べるものである。古い記録から、昔は、菖蒲の葉、藁(わら)、真菰(まこも)など様々なものを使って包んでいたことが分かっており、「ちまき」という名は、茅(ちがや)の葉で包んでいたことに由来するそうである。
「粽(ちまき)」の起源は中国とされ、日本には平安時代に中国から伝わったとされるが、台湾や東南アジアほか多くの国でも、同様に米や穀物の粉を練ったものに餡などを入れて草の葉に包んで蒸す・茹でる・焼くなどして食べる文化が根付いている。
〇葉の巻き方にはいろいろあるが、簡単な方法には、まず団子をやや細長に丸め、2-3枚の笹の葉で団子をくるみ、葉の長さが余った部分を手前側に折って形を整え、まとめた先を井草で縛るというものがある。このほかには、格好の良さに比例するように、複雑で熟練が必要そうなものも数々ある。
粽(ちまき)結ふかた手にはさむ額髪(ひたいかみ)(松尾芭蕉)
「粽結う」は粽を形づくることを意味し、5月の季語にもなっている。葉をねじる、ひねるなどして餅を包み、紐で結わく仕草からか、粽を「作る」のではなく「結う」とするのがなんとも味わい深い。それに何より、誰かの視線にも気づかず、ひとり無心に料理をする女性の姿は、なんと魅力的なことか。
〇同じく5月の季語となっている「蚕(そら)豆」を使った句に
腹立ててゐるそら豆を剥いてをり(鈴木真砂女)
がある。
真砂女の人生は波乱万丈であった。若くして恋愛結婚で嫁いだ夫は博打にのめり込んだ挙句蒸発してしまい、そののち家業の旅館を守るために亡姉の夫に嫁いだものの、宿泊客の年下の海軍士官に心を奪われて出奔し、のちに家に戻ったものの夫と離婚、その後、銀座で小料理屋を営み、女将俳人として活躍した。
お店で出す夥しい量のそら豆を剥かなくてはならないこと、もしくは、ひと鞘から数個しか取れない豆の大袈裟な鞘に腹を立てているのか、或いは、この作業に連動して腹の立つことを思い出してしまったのか…。
怒りの理由はうやむやであるが、人生経験を積んだ真砂女であっても、腹を立てながらそら豆をひたすら剥き続ける姿はどこか初々しく愛らしいものであったに違いないと想像するのである。

(大森圭子)