2014年2月号(第60巻2号)

〇二十四節気の「立春」という言葉の響きとはうらはらに、寒さが一層厳しく感じられる2 月。そんななか臙脂色を帯びた葉の無い枝にぽつぽつと梅の花が咲いて、冷えきった空気を少しだけあたたかく感じさせてくれる。
梅の“花言葉”は「忠実」ときく。その言葉に相応しく、遥か昔に取り決めた約束を守り続けるように、長い間厳しい冬に閉ざされ、ひたすら春の訪れを待つ頃になると決まって“春はもうそこまで来ているよ”とけなげにも可愛らしい花を咲かせて人の心をなごませてくれる。
「梅雨」という季節の名が、雨の多い時期と梅の実が生る時期とが重なることに由来するように、梅は、梅雨時には沢山の実をつける。収穫された梅の実は、のちに梅干し、梅酒、梅酢や菓子などに姿を変えて食を豊かにしてくれる。また、真っ黒く燻したものは烏梅(うばい)といって、健胃、整腸作用があるとされ漢方薬としても用いられる。
「忠実」には、真心を持って尽くすという意味もあることを思うと、梅の木にも心があると思わずにいられない。
「春もやや気色ととのふ月と梅」 芭蕉
冬将軍はいまだ猛威を奮っているが、冷え切った世界のわずかな隙間から春の兆しが入り込み、朧に霞み優しげな表情を見せる月の下、梅の花が咲きこぼれる早春の美しい景色が見られるのももう間もなくである。

(大森圭子)