2013年11月号(第59巻11号)

〇今年は夏の暑さをいつまでも引きずっていたせいか秋が短く感じられ、せっかくの良い季節を充分堪能できないままに11月も終りを迎え、あたりにはすっかり初冬の気配が漂っている。
「秋」という言葉は、湿度が低くなり視界が澄み切って空が清らかで明るく見える季節という「清明(あきらか)」を語源とする説、紅葉などの「紅(あか)」が転じたとする説がある。
「秋」という漢字の部首(へん)「禾」は、「のぎへん」とも「いねへん」ともいわれる。イネ科の植物であるアワが穂を垂れた形から出来た文字であり、「禾」には、アワやイネ、また、イネ科の植物全体を指す意味がある。この季節には穀物が沢山収穫されてなに不自由なく満ち足りているという意味で「飽き(あき)満ちる」季節であることから、これを「秋」の語源とする説もあるようである。
木々の葉も、紅葉をとおり越して枯れ葉の域に入るすれすれといった風情。梢には、ほんのわずかの支えで繋がっているのか、枝の間を容赦なく吹き抜ける北風にとりどりに色づいた葉が一斉に舞い落ちてくる。はらはらと流れるように散るおびただしい数の落ち葉を見つめていると、何か自分が空に昇っていくような錯覚に陥るほどである。
〇秋のとある休日、オペラを鑑賞する機会があり劇場に足をのばした。
題目はシェイクスピアの「リア王」。長女のゴネリル、次女のリーガン、末娘のコーディリアという3人の娘をもつブリテンの王リアが、老いのため退位を決意し、娘らに国を譲り渡すことにする。
しかし、一番に父を思う末娘コーディリアの実直な意見に腹をたてたリアは末娘を勘当、長女と次女の巧みな言葉にまんまと騙され、愚かにも腹黒い二人に国を譲り渡してしまう。目的を果たした長女と次女にリアは追い出され、命が尽きるまで父を思うコーディリアとともに悲しい末路を辿るという悲劇である。
オペラなど滅多に鑑賞する機会がないので、迫力ある俳優の演技と洗練された舞台や演出に目を釘付けにされ、その一方で、感情たっぷりではあるが意味不明のドイツ語の台詞の調べを聞いては舞台脇のスクリーンの日本語訳を眺め、さらには物音ひとつ立ててはいけない雰囲気に少し疲れたけれど、芸術の秋を楽しむことができ良い秋の一日になった。それにしても、何百年の月日が流れても、良薬は口に苦し、短気は損気という教訓には変わりはないらしい。

(大森圭子)