2013年1月号(第59巻1号)

〇2013年を迎え、本誌は1955年の発刊より59年目を数えることが出来ました。皆様からのあたたかいご愛顧に感謝申し上げますとともに、本年もご支援をたまわりますようお願い申し上げます。
〇元日の昼間、ピーヒャラピーヒャラと近づいてくるお囃子の笛の音が耳に飛び込んだ。元日には例年、獅子舞の一行が家の前を通り過ぎる。いつもはガラス窓越しに見送るところ、今年は外で…と表に出た途端、一行を率いる女性と目が合い、初めて玄関先で獅子舞を披露してもらうことになった。
慣れない事で間抜けにも家の中に入りそびれ、玄関先で舞う獅子も、ひょっとこ、おかめのお面を被った二人の童子の踊りも背後から寂しく眺めることにはなったが、獅子に頭噛みもしてもらい、今年一年の無病息災を祈った。
〇獅子舞の起源はインドといわれる。古く遊牧民などの間で神として崇められていたライオンが偶像化され、獅子の仮面舞踊が行われるようになった。一説では、これが中国、朝鮮半島を経由して日本に、また、東南アジア、台湾を経由して琉球へと、6世紀半ば~7世紀初めに伝わったとされる。
〇日本でいう「獅子頭」には、鹿、猪、熊などの獣類をかたどったものの意味もあり、古事記(712)には、弘計王(顕宗天皇在位485-487)が宴の席で鹿の角を捧げて舞ったという記述も残っているそうである。わが国では、獅子舞が渡来する以前から、獣類には霊性があるとして敬う精神が育まれていたことが分かっており、このような下地のあるわが国で、神事舞踏の獅子舞が全国に広がり、様々な形で定着していったことも深く納得のいくことである。
〇平安時代の奏楽、舞楽などのひとコマを絵画で綴った巻物「信西古楽図」の中には、獅子舞の様子も描かれている。前に本で見たところ、ここでは頭部と尾部に1人ずつ入った二人立ての獅子が登場し、その被り物には本物の動物のように毛が生えていた。導きの道化役の男は、踊るような格好で錫杖しゃくじょう(頭部の輪に複数の輪をとおした杖)をかざしながら獅子を縄で引き、またその縄の向かいとこちらで二人の童子が獅子を囃したてるように踊っていた。音の無いこの絵から、童子たちが囃したてる明るい声やシャンシャンという錫杖の澄んだ音色が聞こえてくるようであった。
錫杖は、インドの僧侶が遊行を行う際、殺生を避け、この杖を鳴らして毒蛇や獣を追い払ったことから、除魔の効果もあるとされる。
心の中で錫杖の音色を奏でつつ、皆様にとって新しい年が素晴らしい一年になりますよう心よりお祈り申し上げます。

(大森圭子)