2012年12月号(第58巻12号)

〇日に日に厳しくなっていく寒さを何となく日々やり過ごしいるうちに、今年も残すところ僅かになっていた。
この頃には二十四節気のなかの二十二番目の節目、冬至が訪れる。今年は12月21日が冬至に当たる。一年中で最も昼の時間が短く夜の時間が長い、太陽の力が一番衰える日ともいえる。この日を境に昼と夜の長さが逆転し、太陽の力が徐々に強くなっていくことから「太陽が蘇る日」とも呼ばれる。太陽に新たな強い力を湧き起こさせるために、古くはこの前日に竈を造り直し、冬至に新しい火を起こして弱った太陽の復活を勢いづけようとする風習もあったようだ。冬至にゆず湯に入る風習も、黄色く丸いゆずを太陽に見立て、太陽の力の復活を祈る意味をもっている。
風呂好きの日本人にとって、縁起担ぎや体の不調を和らげる目的で草木や果実などを湯船に浮かべる「薬湯」の風習は身近なものである。冬至のゆず湯のほか良く知られるものに、五月の菖蒲湯、土用の桃の葉湯があるが、その他、松、大根、よもぎ、桜、どくだみ、薄荷、菊、生姜、みかんなど様々なものが薬湯に使われる。昔は薬湯の日は銭湯が大混雑したそうである。冬至のゆず湯も銭湯から始まった風習で、「冬至」と「湯治」をかけたのではないかとの説もある。但し、薬湯は縁起担ぎにとどまらず、保温や保湿、炎症を抑える効果などその効能も理にかなっており、長い年月をかけて培われた日本人の知恵の結晶でもある。
冬至は太陽の南中高度が最も低く、寒い一日になろう。ゆず湯でゆっくり温まり、疫病や疲れを払いのけて年末の繁忙時期を健康にのりきりたいものである。
〇本年も本誌にあたたかいご支援をたまわり、誠に有難うございました。
エピグラム(ウィットに富んだ短い詩)の始祖といわれ、12巻にも及ぶエピグラムを遺したローマの詩人マルティアリスは、その第八巻の中で“omnishabet sua dona dies.(全ての日がそれぞれの贈り物をもっている)”の言葉を残しています。皆さまにとって、来年が実り多い一年になりますように。
どうぞ良いお年をお迎えください。

(大森圭子)