2012年11月号(第58巻11号)

〇少し遠くなった空を見上げると、とりどりに色づいた木々の葉が日差しに透け、巨大な万華鏡を見ているような美しさである。落葉を前にすると葉の付け根はコルク状になり、枝との間の養分の流れが断ち切られる。これにより葉に糖が蓄えられることで「カロチノイド」の黄や橙、「アントシアニン」の赤といった色素が際立ってくるというのが紅葉の原理のようである。
今年は朝夕の寒暖の差が激しく、例年よりも非常に美しい紅葉を見られると聞いた。名だたる紅葉スポットでの紅葉狩りはそれは素晴らしいものであろう。しかし、たとえ黄色いイチョウの葉一枚からであっても、深まる秋を愛でる気持ち懐かしく湧きあがってくる。春のお花見、秋の紅葉狩りと、厳しい季節を迎えるあとさきには必ず柔らかな日差しに包まれる心地よい季節がめぐってくる。四季のある日本で、うつりゆく季節を愛おしく思える心が育まれたことを嬉しく思うこの頃である。
〇先日、都内のデパートを久しぶりに覗くと、早くもクリスマスコーナーが設置されていた。その一角は、キラキラと輝くラメやリボンで飾られたガラスのボール、スノーフレーク、ドングリ、コーン、タッセル、妖精などといった数限りないクリスマス・オーナメントで溢れ、宝石箱をひっくり返したように美しかった。
〇クリスマス・ツリーについては、8世紀のドイツの最初の伝道者聖ボニファティウスが、神聖なカシワの木に人が括りつけられ、神に捧げる犠牲となっているのを見て胸を痛め、人が犠牲になるかわりにモミの木に幼いキリストへの捧げ物を吊るしたという話を起源とする説、ボニファティウスが北欧の雷神トールに捧げられたオークの木を切り倒したところ雷が彼を避けて落ちたことから、これにかわる信仰が芽生え、その象徴としてモミの木が育てられたことを起源とする説などがある。一般にツリーにおもちゃを飾る風習は18世紀から始まったとされている。
売場では、趣味良く飾り付けを済ませたツリーも売られていたが、飾り付けの楽しさを思うと少しつまらなく思えた。12月になれば日ごとに時の流れが速くなる。まだ少し余裕のある今のうちから少しずつクリスマスの準備をし、心待ちにする時間が一番楽しいのかも知れない。

(大森圭子)