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2012年11月号(第58巻11号)
過去50年間の日本人の死亡原因の変化をみると、最も多かった脳血管疾患の死亡数は1970年頃をピークに低下傾向を示し、1980年頃から悪性新生物の死亡数が1位となり、1984年頃からは心疾患による死亡数が脳血管疾患による死亡数を上回った。今年発表された2011年の死亡数で、脳血管疾患の死亡数は肺炎よりも減少し、4位に低下した。
2011年には東日本大震災の影響もあるが、それを考慮しても脳血管疾患による死亡数は着実に減少してきた。高齢化社会になる中で、脳血管疾患の死亡数の減少は大変注目すべきことであり、国をはじめ、日本脳卒中学会や日本高血圧学会等、諸学会が行ってきた対策が着実に効果をあげてきた。
現在でも脳血管疾患の発症率はきわめて高いが、死亡数の減少は、早期診断と治療法が著しく進歩したことと、脳血管疾患発症の危険因子である高血圧の発症防止対策の効果である。高血圧の発症には食塩の過剰摂取がきわめて重要な役割を果たしている。食塩摂取量が1g/日以下で果実を主食とするヤノマモインディアンには高血圧がみられないことからも、食塩摂取量の重要性がよくわかる。かつて食塩摂取量が20g/日を超えていた東北地方の脳血管疾患の発症率は世界でもトップクラスであったが、減塩対策によって最近では12~13g/日へと低下して、脳血管疾患の発症率は著しく低下した。日本高血圧学会では、近年、全国規模で減塩キャンペーンを実施しており、日本人の食塩摂取量は10.6g/日まで低下してきた。日本高血圧学会では食塩摂取量6g/日未満を目指した食事と適度な運動を推奨している。
近年、以上述べた対策が国民に浸透し、高血圧の怖さが理解され、家庭血圧計を購入して血圧を自己管理する人が多くなった。現在、家庭血圧計が最も普及している国は日本であり、患者と医師が連携して血圧を管理するようになってきた。優れた降圧薬が多数開発され、これから一層脳血管疾患が減少してくると期待されている。
食塩に関する研究にも進歩がみられ、脳血管障害等、血管障害が高血圧を介することなく、食塩の直接作用でも惹起されることが判明してきた。心疾患の発症率また死亡率は今なお増加しており、これからは、この領域への対策が重要である。心疾患には、高血圧以外に関与する因子がより多く、食塩、肥満、脂質や血糖の管理等、減塩キャンペーンとともに、食事の摂取量、特に脂質の摂取量を減らすことが大切と思われる。