2011年10月号(第57巻10号)

〇今年も早いものでもう10月。俗説では神々が出雲に集う月とされ、出雲では神在月、出雲以外では神無月と呼ばれる。各地から集まった神々が、父神である大国主命に一年の報告と来年の話をするこの頃には、紅葉前線が優美な錦の帯を手繰りながら北から南へと流れてゆき、今年一年もつかの間に過ぎゆくことを告げるかのように、過ぎ去ったあとはすっかり冬の色へとうつろっている。
〇大掃除といえば年末の風物詩であるが、ひと昔前にはこの他にも、五月下旬~六月上旬の梅雨を控えての時期、九月下旬~十月上旬の夏から秋にかけてのこの時期にも行われていたようである。
古くは、畳、板間、障子、襖を主とした日本家屋では、ごみやほこりを自在に散らすことができるので、掃除道具の主流は箒やはたきであった。
箒は植物の枝や草の茎を束ねたもので、五世紀にはすでに小枝を束ねて箒の形をしたものがあり、それ以降大きく形状は変わっていないものの、その用途は祭事で用いられるなどの神聖なものとして扱われていたとされる。箒を跨いだり踏んだりすると罰が当たるという迷信や、産室に箒を立てる、妊婦の腹を箒で撫でるなどの風習があったのは、箒には産神である箒神(ははきがみ)が宿っているとされていたからである。
「煤払い」の風習が始まった平安時代になって、箒は掃除道具として使われるようになり、室町時代にはかまどの掃除に使う小箒の荒神ほうきを売り歩く商人も登場した。
〇1930年代の初め、矢継ぎ早に国産第一号の電気洗濯機、電気冷蔵庫、電気掃除機が開発・発売された。家電の名前の頭に一々「電気」と付けるところも昔らしいが、発売当時の掃除機は大卒初任給のおよそ2カ月分の価格で、庶民には手の届かない存在であったそうだ。その後、価格が下がったことと、1950年代半ばから建設ブームとなった公団住宅やアパートなどの集合住宅の増加により、外にごみを掃き出すことがはばかられる環境になり、さらに家屋の西洋化で絨毯が流行したことで掃除機が普及した。
〇西洋で箒“broom”を使った諺に、A new broomsweeps clean.がある。これは、新任者が改革に熱心であることを意味しているが、時に改革に走り過ぎることを遠回しに非難する意味で使われることもあるようだ。このあとに、but the old brush knows allthe corners.―でも古い箒は隅々まで全部知っているよ、が続くとか。
量販店の家電コーナーには驚くほどの種類の掃除機が所狭しと並んでいるが、狭い室内でも軽くて小回りがきき、とくに手入れの必要もなく、民芸品としての趣をも兼ね備えた箒の良さもずっと忘れずにいたい。

(大森圭子)