2011年10月号(第57巻10号)

シルバーシート・優先座席

元日本大学獣医公衆衛生学 教授
勝部 泰次

傘寿を越えてから早1年半余、年齢的にはシルバーシートの有資格者と思う。物欲しそうに優先座席の前に立たないようにしているせいもあるが、それを含めて座席を譲られたことはほとんどない。外見上、“お年頃”に見えないのであろうと内心ほくそ笑んでいるが、譲る気にもなれない小憎らしい爺さんに見えているのかも知れない。
過日、友人達と台湾を、また別の機会に韓国を訪れた際、混み合った電車内で若者達がさっと立って席を譲ってくれた。これらは単なる偶然でも、異国人だからでもなさそう。我が国では希になりかけている美風が両国に現存していることを知り、感激した。
某日、日頃の主義に反し、家内と共に優先座席に座ってしまった。向かい側の席を一人で二人分占拠したきらびやかな若い女性は“車内化粧”に余念がない。有資格者が現れたらと気をもんでいたところ、とある駅で脱兎のごとく下車。次に、栄養満点の体に黒のスーツを纏った青年二人がドスンと座る。若者達は優先座席に座ることに何の躊躇いもないようだ。空いている席だから問題ないだろうという心理か?その後、中年の豊満な女性と、対照的に痩せた初老の男性と入れ替わった。女性は居眠り、男性は何やら書類をめくる。そこに、ほぼ90度に腰の曲がった老婦人を伴った中年の女性が現れた。席を譲らねばと腰を浮かしかけた時、この中年の女性が向かい側の席を指さし、命令口調で“そこ”と老婦人へ指図した。周囲に一瞬緊張が走る。座っていた女性は弾かれたように立ち上がり、席を譲った。男性は無反応!
また、別の日に、優先座席に座っている青年へ、老男性が“君はそこに座るべきではない”と注意したことがあった。青年は憤然として“俺は身障者だ”と大声で反論。早期の妊婦を含めて、該当者か否かは外見ではわからない。優先座席は思わぬ物議を醸すことを知った。加齢とともに、乗り物の中で本を読むのが辛くなった。でも車内での人の動きをさりげなく見ていると、時のたつのを忘れ、いつの間にか目的地に着く。“おっと”乗り過ごしに注意!