2011年7月号(第57巻7号)

〇7月は梅雨の蒸し暑さと本格的な夏の暑さとで体には厳しい季節である。熱中症に気をつけるようマスコミや会話を通じて連日注意が促され、水分補給や温度調整に気を配る日々である。厚労省の調査では、昨年の熱中症による死亡者は1718名、そのうち凡そ8割に当たる1362名が65歳以上の方であり、発症場所は、45.6%と半数近くが家や庭となっている。日本気象協会でも、熱中症の危険度を5段階に分けて知らせる携帯型の熱中症測定器を制作会社と共同企画・開発するなど、熱中症の指数計も出回っている。この季節、年長者への贈り物にも最適と思うが、機械に頼りすぎて危ないのが今の世の中。熱中症対策や兆候の基礎知識も併せてお贈りしたいところである。
〇7月の暑さを凌ぐ楽しみな行事の一つに、雑節の土用の丑の日に鰻を食べる風習がある。(ちなみに関西地方では鰻のことをマムシと呼ぶが、これは毒蛇の蝮ではなく「真蒸し」の意味であるそうだ)。真偽のほどは定かではないが、江戸時代に平賀源内が傾いた鰻屋の商策にひと肌脱ぎ、「今日は丑」と看板を書いたことからこの日に鰻を食べる風習が定着したという話が広く知られている。また、万葉集では、奈良時代の歌人・大伴家持が吉田連老という痩せこけた者に詠んだ「石麻呂に吾れもの申す夏痩せによしといふものぞ鰻(むなぎ)とり食(め)せ」の歌が有名である。その昔、土用の丑の日には黒いものを食すと良いとされ、鰻以外でも鯰や鱧や牛蒡などを食べる習慣があったそうだ。また他説では、「丑」の「う」にかけて梅干や瓜など「う」のつく食べ物を食すると良いともされていた。
〇先日、ある方とのお話の中で「焙烙(ほうろく)」の話題となった。焙烙とは、豆や米、茶葉などを煎るときや芋などを蒸すのに使う平たい土鍋のような道具である。話によると風情があって便利なものらしい。割れ易いことから、割れた分の損を上乗せして売値を付けること-つまり掛け値をして売ることの例えに「焙烙の一倍」という言葉もあるそうだ。また、歴史を遡ること戦国時代には「焙烙玉」といって、村上水軍がこれに火薬を詰めて武器として用い、強さを誇ったそうである。焙烙の使い方も色々である。
埼玉県川越市の妙昌寺では、土曜の丑の日に「ほうろく灸」といって、頭に焙烙を被り、その上に灸を据えて脳天に棲む鬼を追い払い、健康を祈る行司が行われるそうである。頭の上の灸はいかにも効き目がありそうだが、かなりの熱さになるのではなかろうか。夏負け知らずの体を作るのはなかなか大変なのである。

(大森圭子)