2011年6月号(第57巻6号)

〇6月と10月は衣替えの季節である。とはいえ梅雨特有の気候で、梅雨晴れで蒸し暑い日もあれば梅雨寒で肌寒い日もあり、服装選びもなかなか難しい。これは衣替えに限らず寝具にも当てはまることで、厚い布団で汗をかいたり薄い布団で体を冷やしたりと落ち着かない。
〇寝具の条件としては主に、クッション性や肌触りなどの寝心地が休養や睡眠に適しているかどうかの「適応性」、保温、防暑、衛生面などからの「保健性」、そして「耐久性」の3つが挙げられる。寝具は人の全体重と一晩30回ともいわれる寝返り、コップ1杯ともいわれる汗などに長期間耐えて心地よい眠りを保たなければいけないのである。
〇古く日本では、井草や菅(すげ)などをゴザやムシロにしたり、布やムシロに井草などを入れて布団としていた。「蒲団」の語源には、蒲(がま)の上にゴザを敷いて寝ていたことに由来するとの節もある。室町から江戸時代にかけて木綿の生産が盛んになってからは、わたを入れた夜着や布団が普及したが、貧困層や地方によっては明治時代頃まで、地面を掘ったくぼみに籾殻(もみがら)を入れて藁(わら)を敷きその上にゴザを敷いたり、「寝藁」といって寝室専用の小さな部屋に藁を敷き詰め、その上にゴザやムシロを敷いて寝ていたそうである。恐らく、藁の上に井草などで作ったゴザやムシロを乗せていたのが「畳」に進化したものと思われる。
布団の変遷に纏わる話に、見栄張りの父親が藁布団で寝ていることを隠して「藁を布団と言え」と子に教えていたところ、藁屑が肩に付いているのを見た子が「布団が付いている」と言った、という笑い話がある。江戸時代後期に来日した米国総領事タウンゼント・ハリスは日本滞在記に「私は質素と正直の黄金時代を、いずれの他の国におけるよりも、より多く日本において見出す」と記しており、また、米国の動物学者エドワード・モースも、明治10年代の日本の印象として、貧困層が活気もあり結構楽しく暮らしていることを書き残しているそうだ。一昔前の日本は、貧しいことをも笑い話にできるような良い時代であったのであろう。
〇NHK放送文化研究所が行った国民生活時間調査によれば、国民全体の平日の睡眠時間は’95年で7:27、’10年では7:14と減少傾向にあり、早く起きる人と夜遅くまで起きている人のどちらも増えていることがその理由とされる。’10年の調査で、有職者の1日の労働時間は、6~8時間が21%、8~10時間が29%、10時間以上が21%だそうだが、残業を遅くまでするのではなく、早くから仕事をして早めに帰宅し、夜はインターネットやテレビ、ビデオなどで夜遅くまで起きて自分の時間を楽しむというライフスタイルに変わりつつあるようである。年々減少する睡眠時間を脇役として助ける寝具。この夏の熱帯夜に向けても、進化を遂げた寝具が様々登場しているようだが、私はゴザあたりで先達の残してくれた知恵を体感し、昔歳の暮らしを偲んでみたいと思っている。

(大森圭子)