2011年4月号(第57巻4号)

〇4月は卯月と呼ばれる。「卯」とはユキノシタ科の植物である「空木(ウツギ)」のことで、唱歌「夏は来ぬ」の有名な一節「卯の花の匂う垣根にホトトギス早も来鳴きて」にも登場している花である。しかしながら本当の花の季節は旧暦の4月のこと。楚々とした小さな白い卯の花に実際お目にかかれるのはもう少し先のことになる。
〇この季節の花といえばやはり桜であろう。その名の由来は、沢山の花が咲くことから「咲く」に複数であることを表した接尾語の「等(ら)」が合わさってこの名になったという説、山の神である「さ神」が、春になると豊穣の神として里に下り、この木を座(くら)とすることからこの名が付けられたという説、木花(桜の花)のように美しい容姿であった富士の神「木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)」が、富士の頂から桜の花の種を撒いたことから、「咲耶姫」が「さくら」に転じたとする幻想的な説話もある。
「月に叢雲、花に風」というが、世の中、良い状態はそう長続きしない。美しい桜の花が咲きちょうど見ごろになったあたりで、決まって春の嵐が猛威を奮うのである。
わが家の庭にも、とてつもなく小さな桜の木とボケの木が揃って植えてあるのだが、ようやく咲いた花が強風に煽られる姿があまりにも痛々しく、応急処置でクリーニングから戻ったばかりの服に被さっていたビニールで覆っておいたところ、いつの間にやら風はおさまり気温が上昇、あやうく中で花々が茹ってしまうところであった。
過保護はやはり良くない。
〇桜の8割以上を占めるという「ソメイヨシノ」の花は、白とも見てとれるほどの淡いピンク色。人生の新しい門出の季節に相応しく、お祝いの色とも新しい一歩を踏み出す意気に染まった頬の色のようにも思える。
風に花びらが一斉に散る様子もまた、希望を胸に潔く新しい世界へと旅立っていく勇士のようである。

(大森圭子)