2011年1月号(第57巻1号)

〇明けましておめでとうございます。昨年もおかげさまで一年間とどこおりなく12号を発行することができました。本誌をご愛読たまわっております皆さま、また、お忙しい時間を割いて記事をご執筆いただいた沢山の先生に心より御礼申し上げます。お送りいただいた書類やお電話でいただいたメッセージにも大いに励ましていただきました。
時代が大きく変わっていくなかで、いつも変わらないあたたかいご支援をいただいていることに感謝で一杯です。今年も一層の努力をして編集作業に務めてまいります。なにとぞ本年もよろしくお願い申し上げます。
〇正月の御節(正月)料理は、本来、幸を重ねるという意味から使われている重箱に詰められた料理をさすものである。もとは中国から伝わった風習で、季節の節目を祝う節会のために設えられた祝い膳である。真冬に手に入れることができる貴重な食材の中から、色、形、語呂合わせなどで縁起物として選ばれたものがこの時とばかりに脚光を浴びる。“色の部”では、例えば蒲鉾や蛸、膾なますはお祝いを意味する紅白の色から、栗きんとんは金運を良くする黄金色から、“形の部”では、伊達巻は巻物に似ているので知識を豊かにする、慈姑くわいは芽が出ているので出世をするなどの理由で選ばれている。“語呂合わせの部”では、昆布はよろこぶ、橙は代々繁栄などの意味があり、重箱の中には料理とともに先人の機智も盛り込まれている。御節料理は、作る派、買う派、こだわらない派などいろいろあると思うが、伝承されてきたしきたりが生活スタイルに合わせて形を変えつつも、忘れられることなく守られていることは喜ばしいことである。
一方、正月飾りの一つ、鏡餅は、人の魂や神事に用いられた鏡の形をかたどったといわれる。鏡開きでは、神に供えたものを包丁で切る行為は神様に失礼になり縁起が悪いとされ、木槌や手で餅を割るのが慣わしである。
年末の量販店に、プラスチックの容器に入れられた餅の箱が積み上げられる光景も見慣れたものになったが、パックを開ければ切り餅がバラバラとでてくるものであれば鏡開きは簡単、パックに餅が充填されているものでは少々難航する。止むを得ず包丁を入れると包丁の背が丁度沈んだところでにっちもさっちもいかなくなり、そこからはみだした包丁の背にさらにぐいと力をこめて沈めていく。まるで神様から罰を与えられたように赤紫の縞模様になった掌を眺めながら、昔の決めごとの道理はよく出来たものと感心する。長く飾った餅が青や赤の黴の粉に彩られ、餅の表面が厚い皮のようにめくれ、裏返せば自ずとひび割れてきている頃に餅を割るのが丁度良かったのだと。昔は鏡開きの餅から黴をこそげ取ったり水に浸したり。これも凧揚げや双六、福笑いなどと同じくらい懐かしい正月の思い出である。

(大森圭子)