2010年11月号(第56巻11号)

〇「冬めく」という季語のとおり、紛れもない冬の到来を感じる季節となった。初冠雪の頼りが届く頃にもなれば衣類や調度類を切り替え、年末に向けて残り時間を確かめながら気構えを切り替えて過ごす日々がやってくる。今年はいつ終わるとも分からないような暑い夏だったので、さながら冒険映画のように、火炙りの難をからくも逃れた途端にストンと気温が下がり、冷気に身震いをして見上げれば、氷上に犬橇を滑らせる雪の女王がすぐそこにまで迫り来ている、といった感じである。もう少し秋の趣のなかに静かに置かれていたい気がするが師走は近い。
〇日本ハンカチーフ協会が11月3日をハンカチの日としている。その理由は、1785年マリー・アントワネットがルイ16世にハンカチを正方形に統一するとの政令を出させたことから、ハンカチに縁ある王妃の誕生日(11月2日)に近い祝日に定めたそうだ。
〇これまでに見つかっている最古のハンカチは、エジプトで発見された紀元前の麻製の布だそうだが、この頃のハンカチは実用品ではなく装飾品として身分の高い人の持ち物であったとされる。ルイ王朝の宮廷でも高価なハンカチを持つことがステイタスであったため、華美な刺繍や素材の三角や丸などの様々な形のハンカチが作られた。中には財産の多くを注ぎ込む者もあったため、この氾濫を抑えるべく王妃の好みと権限とで正方形に統一を図ったのである。
〇明治時代になりわが国にハンカチやタオルが渡来するまで、似たように使われていたものに懐紙がある。紙を作るために麻くずなどを轢く臼を作ったとされる雲徴という僧は、7世紀頃に高句麗から来朝しわが国にはじめて製紙技術をもたらしたとされる。当初、和紙は、経や法律を書くために使われたが、江戸時代には庶民にも広く伝わり様々な使われ方をするようになった。懐紙は使い捨てをすればハンカチよりも清潔であり、同時に菓子等を取る皿に変わる役目やメモの代わりを果すなど多様に使うことが出来る。一方、ハンカチやタオルと同じく吸水の目的で使われる日本手ぬぐいも、吸水は用途のほんの一部に過ぎず、性別、年齢、身分やねらいに応じて、汗止め、塵除け、お洒落などで頭や首に巻く・被るなどの使い方もあり、屋号や名前を入れて名刺や看板代わりに、暖簾や目隠しとして使うなどアイディア次第で様々に利用されてきた。手拭の両端が切りっ放しになっているのは乾きやすいからという理由も清潔好きな日本人らしい。

(大森圭子)