2010年8月号(第56巻8号)

〇 8月も下旬となったが依然として記録的な暑さが続いている。外を歩いていると、半袖からのぞく二の腕のあたりにチロチロと炎の舌に舐められているような熱気を感じ、まるで巨大なオーブンの中を歩き回っているような錯覚に陥る。
連日のニュースでは熱中症で亡くなった人の話が流れてくる。そうなる前にどうにか出来ないものかと思うのだが、高齢者ではとくに体の感覚が鈍くなっていることがあり、気付かないうちに手遅れになるケースもあるそうだ。
現代社会では、個々の生活に必要なもの全てを各々が囲い込みプライバシーを守ることに必死である。日増しに地域共同体という意識は薄れ、地域社会の良さである相互扶助の精神や人と人との触れ合いが乏しくなっている。高齢者が熱中症で亡くなってしまうのは猛暑のせいというより、むしろ人の目が届かない孤独な生活者が増えていることに問題があると思い知らされる日々である。
〇一本でも人参、二足でもサンダル……の歌ではないが、収穫時期を7~8月とする立派な夏野菜でありながら「冬瓜(とうがん)」という名の付いたウリ科の野菜のことを不思議に思った。名前の由来を調べると、皮に付く白い粉が雪のように見えることや、丸のまま冷暗所に貯蔵すれば冬まで食べられることからこの名がついたという説があった。夏に収穫した食物を収穫物の少ない冬まで大切に貯蔵して食することでは「冬至かぼちゃ」と同じである。
冬瓜は、わが国には中国から渡来し平安時代から栽培されるようになったとされている。室町時代から伝わる恐ろしい説話「瓜子姫」は冬瓜をモデルにしているとの節もある。
〇以前、あるレストランで、野菜の「カービング(彫刻)」技術によって美しく変身を遂げた冬瓜を見たことがある。薄く皮を剥くとヒスイのような透きとおる緑色、これが実の白さと相俟って得も言われぬ美しさと涼しげな風情を醸し出していた。実の殆どは水分であるが、漢方上ではむくみをとり、体を冷やす効果があるとされる。目にも健康上にも夏の暑さを凌ぐにはもってこいの野菜なのである。
〇予て本誌の編集を担当していたI 氏から、部屋の片隅に置き去りにしたスイカの中身が発酵しいきなり爆発したという「すいか爆弾」の話を聞いた。
日本各地もしくは世界各国からの食物が季節に関係なく容易に手に入る現代では、夏野菜を冬まで貯蔵する必要はなくなったが、もしも冬瓜の貯蔵に挑戦するならば、思わぬ結果を招かぬようご注意ください。

(大森圭子)