2009年10月号(第55巻10号)

〇最近、石に宿る神秘の力に期待して、貴石や宝石のなかでもとくに力を持つとされるさまざまな石を使ったアクセサリーや小物の人気が高騰している。
ブームにかなりの遅れをとっていた私も友人に連れられ、ついに石の小物を作っている店にお邪魔した。軽い気持ちで店に入ると思いがけず崇高な雰囲気。いつものおしゃべりもおのずとはばかられ、おとなしく席に着いた。
細かい仕切りのついた幾つかのアクリルケースに、赤・青・白・黒などの系列で整然と色分けされた色とりどりの石が大小取り揃えられ、その種類の豊富さに目をみはった。こんなに種類があっては何をどうして良いのか全く分からない。狼狽する私に気づいてか接客の女性が、金運・恋愛運・仕事運・健康運など目的に合った石を選ぶ方法や、自然と心惹かれる石は潜在的に今の自分が必要としていることなどを教えてくれ、呪術的な空気が立ち込める。
結局のところミーハーな我らは、好きな色の石をひたすら繋げて可愛らしい腕輪を作り自己満足。その後のケアについてはよくあるアクセサリーと同様かと思いきや、石は暫く装着していると邪気などを吸収して疲労するので時には浄化が必要とのこと。店に入った時に接客の女性が慌ててトレイで火を消したのは隠れ煙草だと思っていたところ、実は乾燥セージの葉であった。古く儀式でも用いられたというセージの煙には強い浄化作用があるのだそうだ。他に月光や塩による浄化方法もあるとのこと。
店に入ったときから、背後にある巨大な水晶の塊は何かと思っていたところ、その上に置いておいても石の浄化ができるのだとか。友人に、私ごとまるまるその上に乗ったほうが良い、と冷やかされながら店を後にした。

(大森圭子)