2009年10月号(第55巻10号)

墨画にのめりこんで

奈良公園

東京に住んでいて関西に行く機会があると、つい京都や奈良の雰囲気につられ、空いた時間があると訪れてみたくなる。京都で学会があり、それが終わって緊張から開放されると、特に身も心も軽くなる。今度は奈良に行ってみようと、近鉄京都駅から特急に乗り30分で奈良駅に着く。途中沿線の風景もよい。今度は、思い切り自分の足で奈良を歩き、古都の空気を味わうことにした。
駅から歩いて10分で奈良町、ここは16世紀に花開いた町民文化が基礎になっており、格子造りの家が並び、歩いていて100年はタイムスリップしたような良い風情が残っている。歩いているうちに、旅の案内書に紹介されている今西家書院に着く。日本最古の書院建築だというので立ち寄り、庭に面した書院で抹茶を頂きながら庭を見せてもらった。一流のものを見せてもらった後は、いっそういい気持ちになる。
県庁の奥にある奈良県立美術館をざっと見た後、足をのばし、まえから一度中に入ってみたいと思っていた奈良国立博物館に入った。各時代の仏教彫刻や仏教絵画がたくさん展示されており、仏教美術の粋が集められている。いろいろと教わることが多い。
本館と新館とがあり、それぞれに実に多くの部屋があるので、一度に見ようとすると疲れてしまう。本館から新館に移動するとき、博物館の周りの奈良公園の景色が見られ、とても息抜きになった。
博物館の見物を終え、外に出て深呼吸をし、周りの奈良公園を眺めた。辺りの風景はいかにも奈良を思わせる感じがし、それをスケッチした。古い松の形がよい。少し離れたところにある林もよい。家に帰って墨絵にしたのがこれである。鹿を描き加えたら一層奈良らしい絵になった。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。