2009年9月号(第55巻9号)

〇先月号の矢口貴志先生の論文に続いて、今月は後藤慶一先生に「真菌の分類と同定2」をご執筆たまわりました。また、臨床検査ひとくちメモ欄では、本誌歴代編集委員でもある山口英世先生に、トリコスポロンに関してご解説いただきました。今後も継続して、多くの方が関心をもたれている真菌に関して詳しく分かりやすいご解説をいただく予定です。また、本号より「人類と感染症との闘い」の連載を開始しました。歴史や考古学を趣味とされる加藤茂孝先生が、有史以来の“人類と感染症との闘い”を解き明かしてくださいます。ご愛読ください。
〇かねてより自宅の裏側が暗く不安を感じていたところ、ある晩、隣家の軒先に揃ってセンサー付ライトが設置されていることに気づいた。そうなると、漆黒の闇に沈む我が家が酷く無用心に思え、次第に不安で仕方なくなり、遂に防犯カメラ付センサーライトを奮発した。動くものは全て録画される仕組み。ある日画像を確認すると、塀の上を歩く猫の姿ばかり。“猫に高いお金を使って……”と母に冷笑されながらも、三毛、黒、白……とおおむね近所の猫を把握したところで、異質なずんぐりした動物の後姿を見つけた。もしや狸かと思い、いざ特徴を思い浮かべようとしても、浮かぶのは大福帳と徳利をぶら下げた焼き物の容姿ばかり。己の無知を呪いながら調べてみると、狸はイヌ科の動物で四肢は短く頭胴長50センチくらいとある。どうやら狸か。狸といえば民話には人を化かすものとして登場し、鎌倉の建長寺には狸和尚が書いた文字が残っているとか。楽しくなってきたところで、狸汁は一般的に穴熊の肉で作ることを知った。狸は臭すぎて食用にならないそうだ。そこで今度は穴熊を調べると、穴熊は狸としばしば混同されるがイタチ科で手足の爪が強大、森林に棲む…とある。狸がイヌで熊がイタチ??と混乱したところで数日後、新しい録画を見ると、怪しい動物が今度はこちら向きで写っていた。暗闇に爛々と輝く目、肩の辺りがくすぶるように黒い。顔の中心にある真っ白な線が紛れも無く“ハクビシン(白鼻芯)”であることを物語っていた。
ハクビシンはジャコウネコ科の動物で、第二次世界大戦時に毛皮や食肉用として占領地から持ち込まれ飼育されていたものが逃亡、野生化したといわれる。一方、斑紋の違い等から日本固有の種であるという説もある。それにしても地元では珍しいハクビシン。市のホームページで調べると、数年前のSARS騒ぎでペットとして飼われていたものが捨てられ、野生化しているとあった。
以前、別荘地に飼い犬を連れて来て故意に置き去りにする心無い人の話を聞いた。人は何と身勝手なことか。江戸時代に残された絵や書物上の“雷獣”のモデルはハクビシンではないかといわれる。雷獣は雷の本体とされる想像上の妖怪。雷とともに現れ人をとって喰う。人目を避けて必死に生き伸びようとするハクビシンの姿はけなげだが、心中では雷獣になって人をとって喰いたいところだろう。

(大森圭子)