2009年9月号(第55巻9号)

現代を斬る

東海大学名誉教授 小澤 敦

金融資本主義、人間中心主義が作り出した現代社会は、機械的で味のない人間関係と、金と物による価値観が主体となった閉塞感の漂う文明病的社会となっている。曽て、薬師寺館長の高田好胤さんは「我が国は物で栄え、心で亡びる」と金持ちより心持ちだということを力説した。物と技術によって生まれた文明を謳歌して来た我々の生活は、ある程度進歩したかもしれないが、精神的所産である文化度は著しく低下したように思う。個人の共有する価値意識の単純化、平面的思考性といった空気が社会を覆っている気がしてならない。異なる意見の衝突こそが組織を活性化する原動力であるのに、物言わぬ事勿れ主義が重宝がられ、誰も責任をとらない体制に明日への展望が開けるはずがない。 政治が悪い、社会が悪いと言うのは易しいが、それらを構成している個人の言論が貧困で、個人の強力な発信力が欠けてはいないか。言論の自由は無差別に保証されるべきだ。デカルトによる人間中心主義の思想は、自然との対立を生み、人間の傲慢不遜の行為によって環境破壊をもたらした。環境問題は人間が犯した罪科であることを念頭におき、自然の一員としてのヒトと自然の操縦者としての人間との共生関係が構築されて行くことが、問題解決への基本姿勢である。更に言えば地球上から人間が消滅すれば環境問題は一気に解決するが、そんなことは不可能だ。冷暖房のきいた部屋で環境問題を論じている連中には腹が立つ。近代科学技術によって我々は多くの恩恵を受けているが、一方それによって人間性や心の豊かさが失われ、無機質的社会が作り出されている。まだ言いたいことは沢山あるが、字数制限のため断念するが、今我が国に求められているのは知力(先見性、洞察力、決断力、行動力の総和)と胆力(腹の座った)をもった強力なトップリーダーの出現である。この夏、小生は女房から「口の悪い、怒りっぽいあなたにピッタリよ」と言って扇子をプレゼントされた。それには、「気は長く、心は丸く、腹立てず、口つつしめば命ながらえる- 長寿の心得より」と書いてあった。因に小生は現在85才の働き盛りである。