2009年9月号(第55巻9号)

墨画にのめりこんで

夢の島の熱帯植物園

東京でごみを集めて焼却をする島ができ、そこに夢の島というきれいな名がついた。ずいぶん前からこうした話は聞いていたが、遠く遙か彼方の東京湾の埋め立て地のことと思っていた。ごみ焼却の際に出る熱を利用して温室ができた。限りなく出るごみの焼却は今後も続くことであり、一度は行って見物したいものと思っていた。
温室は贅沢な施設であり、そのはしりは新宿御苑であり、これはよく言えば国の威信をかけて造ったものであろうが、井の頭公園や神代植物公園の温室になると、それぞれの予算の額がたちどころに反映され、中に植えられている植物や鉢物は、時に珍重がられ、逆のときは打ち捨てられて哀れである。
勤め先の病院のひとつが、東京湾埋立地の新開地の有明に移ったので、すぐ近くにある新木場駅から徒歩15分の熱帯植物園を訪れてみた。
始めて行ったのは1月上旬、温室の外は真冬、中には椰子の木が広大な温室のドームの中一杯に高く伸び、わが物顔に茂っていた。2 回目に行ったのは、逆にまだ暑い盛りの9月上旬で残暑厳しく、椰子は茂りすぎて美観に乏しく、マダガスカル産のオオギバショウが見事に多数の葉を広げて、孔雀が羽を広げたような偉観があり見事だった。
地球上の環境により、日光、温度、湿度などに違いがあり、植物はそれに適応するべく形や姿がこんなにも違ってくるものかと感心させられる。ここの温室は、おおきくA, B, Cの3つのドームより成っており、AとBドームには熱帯雨林の椰子や木性シダが植えられており、Cドームは小笠原の亜熱帯の植物が主である。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。