2009年8月号(第55巻8号)

〇少し前まで台風は秋のものというイメージがあり、この頃はなぜ台風が多いのかと疑問に思っていた。しかし台風が来襲しやすい時期が7~10月頃とされ、一年の三分の一もが台風シーズンにあたることを知り“しょっちゅう来るもの”というイメージに変わった。過去に遡れば、早いものでは昭和31年の4月下旬に、遅いものでは平成2年の11月下旬に台風が上陸したという記録があり、その幅は約7か月にもなる。ある時自然は、人の理想に副い、ある時自然は、平然と人の予想を出し抜くものなのである。
来襲する季節によって台風は大きく「夏台風」と「秋台風」に分けられる。北上した台風が、日本の上空を吹く偏西風の流れに乗る「秋台風」では動きは早く、比較的進路予想はつきやすい。一方、偏西風が日本の上空から遠く北に離れた季節に起こる「夏台風」では、動きは遅く迷走する可能性が高い。勢力としては、夏よりも意外にも水温の高い秋のほうが勢力を増し大型である傾向があるそうだ。
台風の定義はおおまかに、北西太平洋または南シナ海で発生する熱帯低気圧のうち、最大風速17メートル以上のものとされる。風速17メートルというと、たとえば、風に向かって歩けない、あるいは転倒する危険があるという強さである。そんな状況では早く家に帰り、雨戸を閉めるか割れる恐れのあるガラス窓から離れて、部屋の中の安全な場所で過ごすのが何より。
子どもの頃の家は建て付けの悪い木製の窓枠であったので、窓枠に雑巾を押し当てて豪雨に応戦した。しかし、くたびれた雑巾などは物ともせず、風に叩きつけられた雨が吹き込みボコボコと音を立てて溢れた。窓際の畳は上げられ、狭い部屋の中には植木鉢やらバケツやらが肩を寄せ合うようにして置かれ、ついでに幼いわれら兄弟も肩を寄せ合い、停電に備えて懐中電灯を枕元に用意して不安と胸の高鳴りを感じつつ眠りについた。あの頃の台風が今よりも大型で非常に強く思えるのは旧式な家屋のせいもあったろう。しかし今にして思えば、ある日突然恐ろしい顔を見せる自然の怖さを心に刻み込む良い機会であったと感じるこの頃である。

(大森圭子)